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捨てたはずのゴミが戻ってくる街 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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きっかけは、些細な違和感だった

僕が引っ越した街には、ちょっとした奇妙なルールがある。

それは――ゴミを捨てても、翌日には戻ってくることがあるというものだ。

「は? どういうこと?」

初めてその話を聞いたときは、冗談か都市伝説のように思えた。

でも実際に住んでみると、確かにおかしなことが起きた。

引っ越して最初のゴミ出しの日、普通に燃えるゴミを出した。

次の日、僕は玄関のドアを開けて固まった。

昨日捨てたはずのゴミ袋が、なぜか玄関の前に置かれていたのだ。

誰が戻しているのか?

「誰かの嫌がらせか?」

管理人に苦情を言いに行ったが、管理人は妙に落ち着いていた。

「この街ではね、たまにゴミが戻ってくるんですよ」

「……え?」

「みんな慣れっこです。でも、不思議と悪いことは起きないんです。むしろ、いいことが増えるって話もありますよ」

管理人はそれ以上詳しく話そうとしなかったが、どう考えてもおかしい。

ゴミ収集車のミス? いや、わざわざ捨てたゴミを個別に持ち主の家の前に戻すなんてことがあるだろうか?

町の人たちの証言

その後、近所の人たちに話を聞いてみた。

「あるある。特に、思い入れのあるものを捨てると、戻ってきやすいよ」

「うちもね、昔飼ってた犬のオモチャを捨てたんだけど、翌朝玄関に戻ってきてたんだよ」

「そうそう! でもね、無理に捨てようとしなければ、ちゃんと消えるんだよ」

どうやら、この街では「まだ捨てるべきでないもの」が戻ってくるということらしい。

ならば試してみよう――

ゴミが戻る理由

僕はあえて、どうでもいいチラシやペットボトルを捨ててみた。

それらは戻ってこなかった。

しかし、昔のアルバムの一部や、学生時代に書いた未完成の小説の原稿を捨てると――

翌朝、玄関の前にあった。

「……なんで?」

試しに、その原稿を読み返してみると、思いがけず懐かしさがこみ上げてきた。

「これ、完成させようと思ってたんだよな……」

ゴミではないものを、僕は「不要だ」と決めつけて捨てようとしていたのかもしれない。

不思議な街のルール

その後も、しばらくこの街に住んでいたが、結局、誰がどうやってゴミを戻しているのかはわからなかった。

ただ、「まだ手放すべきではないもの」を無理に捨てようとすると、戻ってくる。

「ゴミを捨てる」という行為は、「過去を手放す」という意味を持つのかもしれない。

この街のルールが、それを見極める手助けをしてくれているのだとしたら……?

「……悪くない街だな」

今ではそう思っている。



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