怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

気味の悪いメモが増えていく 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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最初の違和感

引っ越したばかりのワンルームのアパートは、築年数こそ古いが家賃が安く、立地も悪くなかった。

しかし、住み始めて数日が経った頃から、妙なことが起きるようになった。

最初は、玄関の下に小さなメモが落ちていた。

── 「ドアの鍵、ちゃんとかけた?」

誰かのいたずらかと思ったが、気味が悪くてすぐに捨てた。

その日は特に何もなく、すぐに寝たのだが――

翌朝、またメモがあった。

── 「夜中に誰か来てたね」

心臓が跳ね上がった。

昨夜は特に物音など聞いていない。誰かが勝手に廊下に入っているのか?

怖くなって、すぐに管理会社に電話したが、

「そういった苦情は今までありませんねぇ」

と取り合ってもらえなかった。

メモは増えていく

それからというもの、毎朝、ドアの隙間にメモが挟まるようになった。

── 「昨日、夢の中で誰と話してた?」

── 「冷蔵庫の中、変わってない?」

── 「寝てる間に、部屋のレイアウトが少し違う気がしない?」

どれも、ゾッとする内容だった。

特に、部屋のレイアウトというメモを見た時、背筋が凍った。

念のため部屋を見回したが、特に変化はない……はずだった。

でも、ふと気づく。

テーブルの位置が、数センチほど動いている気がする。

…いや、気のせいか?

監視されているのか?

防犯カメラを確認しようと管理会社に相談したが、アパートの廊下にはカメラはなかった。

ならば、自分で監視カメラを仕掛けてみよう。

スマホ用の監視アプリを使い、玄関を映すようにセットした。

そして迎えた翌朝――

メモは、やはりあった。

── 「カメラ、ちゃんと撮れてる?」

急いでスマホを開いた。

だが、昨夜の記録は真っ暗な映像しか残っていなかった。

まるで意図的にカメラを塞がれたような黒い画面。

その瞬間、ゾッとする考えが頭をよぎった。

……誰かがカメラの存在を知っていた?

メモの送り主の正体

耐えきれず、数日後には引っ越しを決意した。

荷造りをしていると、またメモが落ちていた。

── 「もう行っちゃうの?」

怖くてメモを握りつぶした。

最後に、捨て忘れたメモの束をまとめてゴミ袋に入れようとしたとき、ふと違和感を覚えた。

…この紙、どこかで見たことがある?

まさかと思い、自分の部屋の引き出しを開けた。

そして凍りついた。

そこには、メモと全く同じ紙の束が入っていた。

つまり――

このメモを置いていたのは、最初からこの部屋にいた"誰か"なのか?

それとも……

僕自身だったのか?

終わりと後日談

引っ越して数週間、ようやく落ち着いてきた頃、友人にこの話をした。

すると、友人はこう言った。

「それってさ……本当に、"メモ"だったの?」

「どういう意味だ?」

「"メモ"じゃなくて、"誰かが書いたもの"じゃなくてさ……"お前が心のどこかで考えていたこと"だったりして」

……もしそうなら?

もしあのメモが、僕自身の無意識の思考が可視化されたものだったとしたら?

考えれば考えるほど、底知れぬ恐怖がこみ上げてくる。

あの部屋にはもう戻りたくない――

でも時々、ふと思う。

引っ越し先の玄関を開けたら、あのメモが落ちていたらどうしようか、と。



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