怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

台風が連れてきたもの 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

その年、記録的な台風が日本列島を直撃するとニュースで騒がれていた。

私は地方の小さな町に住んでおり、台風慣れした土地柄もあって、特に深刻には考えていなかった。

「どうせ大したことないさ」

そう思いながら、台風が近づく夜、私は一人で自宅のアパートにいた。

しかし、その夜――台風はただの自然現象ではないことを、私は知ることになる。

【異変の始まり】

台風が最も接近した夜、外は凄まじい風と雨の音に包まれていた。

窓ガラスがガタガタと震え、停電しないことを祈りながらテレビをつけていた。

ふと――。

「コンコン…」

玄関のドアをノックする音が聞こえた。

「こんな嵐の中に、誰が?」

不審に思いながらも、恐る恐るドアスコープを覗く。

そこには、誰もいなかった。

【謎の足跡】

不気味に感じつつも、「風のせいか」と自分に言い聞かせて部屋へ戻った。

だが、翌朝。

台風が去った後、外へ出てみると玄関前に小さな足跡が残っていた。

まるで子どもが裸足で歩いたような痕跡。

しかし、周囲には子どもどころか、誰の姿もない。

「近所の子どもか?」

そう思ったが、足跡は私の部屋の前で止まっていた。

まるで、誰かが中に入ったかのように。

【見知らぬ傘】

さらに不思議なことに気づいた。

玄関に、見覚えのない古びた傘が立てかけられていたのだ。

錆びた骨組み、色あせた布。まるで何年も使われていないような傘だった。

「こんなもの、あったか?」

私はその傘を捨てようとしたが、手に取ると奇妙な寒気が走った。

傘を広げてみると、内側に小さな文字が書かれていた。

「ただいま」

【誰かがいる】

その日以来、部屋で誰かの気配を感じるようになった。

夜中、ふと目を覚ますと――。

「パシャ…パシャ…」

濡れた足で床を歩くような音が聞こえる。

振り返ると誰もいない。

だが、床には小さな水たまりと足跡が残っていた。

私は震える手で傘を再び確認した。

すると、内側の文字が少し変わっていた。

「おかえり」

【エピローグ】

私は耐えられなくなり、アパートを引き払って引っ越した。

しかし、新しい部屋でも、時々濡れた足跡が現れることがある。

そして、ある日の夜――。

玄関のドアがコンコン…とノックされた。

ドアスコープを覗くと、そこには誰もいない。

ただ、玄関の前に置かれていたのは――

あの古びた傘だった。

「おかえり」

再び、傘の内側にそう書かれていた。

台風が連れてきたのは、風や雨だけではなかったのだ。



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