それは、台風が直撃した日のことだった。
私は都内のマンションで一人暮らしをしている。ニュースでは「記録的な暴風雨」と繰り返し警告しており、外は激しい雨と風が吹き荒れていた。
仕事も休みになり、家でのんびり過ごしていたのだが、その日、異変が始まった。
目次
静寂の中の違和感
台風がピークを迎える頃、外から聞こえていた轟音が突然ピタリと止んだ。
「……あれ?」
あんなに荒れていた風と雨が、まるでスイッチを切ったように静まったのだ。
台風の「目」に入ったのかもしれない。天気予報でもよく言われる現象だ。だが、その静けさは異様なほど不自然だった。
窓を少し開けて外を覗くと、暗い雲が空を覆い、街灯に照らされた道路は濡れて光っている。しかし、誰の姿もなく、ただ静まり返った世界が広がっていた。
まるで、街全体が息をひそめているような気味の悪さだった。
窓の外に立つ人影
ふと、視線の先に黒い人影が立っているのが見えた。
道路の真ん中に、傘も差さず、じっとこちらを向いて立っている。顔は街灯の逆光で見えないが、確かに誰かがそこにいた。
「こんな天気の中、なんで……?」
妙に気になって、しばらくその影を見つめていた。
しかし、その人物は全く動かない。
時間が止まったように、ただ静かにこちらを見ているだけだった。
近づいてくる気配
私は不安を感じ、窓を閉めようとした瞬間――
その人影が、少しだけ首を傾けた。
その動きは、まるで「こちらを確認した」かのようだった。
さらに次の瞬間、カツン、カツンと硬い足音が響き始めた。
人影が、ゆっくりと私のマンションに向かって歩いてくる。
私は慌ててカーテンを閉め、鍵を確認した。
インターホンの音
心臓がドクドクと高鳴る中、玄関のインターホンが鳴り響いた。
ピンポーン。
モニターを確認する勇気はなかった。ただ、ドアの向こうに何かが立っているという事実だけが重くのしかかってきた。
数分間、インターホンは何度も鳴り続け、やがてピタリと止んだ。
私は耳を澄ませた。
――シン……とした静寂。
「……帰ったのか?」
恐る恐るドアスコープを覗いたが、誰もいなかった。
再び荒れ狂う風
安堵したのも束の間、突然外で強烈な風が吹き荒れ、雨が窓ガラスを叩きつけた。
どうやら台風の「目」を抜けたらしい。
だがその瞬間、私は気づいた。
さっきまで閉めていたはずのベランダの窓が、少しだけ開いている。
私は震える手でゆっくりと近づき、窓を閉めようとした。
そのとき――
カーテンの隙間から、濡れた足跡が部屋の奥へと続いているのを見つけた。
終わらない嵐
私はその夜、最後まで部屋の奥へ近づくことができなかった。
ただ一つ言えるのは、あの足跡は決して「私のもの」ではなかったということ。
台風が過ぎ去った後、足跡は跡形もなく消えていた。
しかし、今でも時々、嵐の夜になると、あの足音が耳の奥で響く気がする。
まるで、あの気味の悪い静寂が、今もどこかで私を探しているかのように――。
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