目次
雪の降る街での異変
その年の冬、私は仕事の都合で地方都市に転勤することになった。
初めての雪国での生活。朝、窓を開けると一面の銀世界が広がっていて、都会では見られない景色に少し心が躍ったのを覚えている。
しかし、奇妙なことに気づいたのは転勤から1週間後のことだった。
「雪が溶けない」のだ。
気温は日中でもプラスに達しているはずなのに、道路脇や屋根の上の雪が全く減らない。
晴れている日ですら、全く変わらないのが不自然で、私は気象の異常現象かと思っていた。
街の人々の無関心
もっと奇妙だったのは、この異常に誰も気づいていないことだった。
近所のコンビニの店員にさりげなく聞いてみた。
「今年の雪、全然溶けないですよね?」
すると店員は、
「え? そんなもんでしょ」
と、特に気にした様子もなく答える。
職場の同僚に聞いても、同じような反応だった。
私は内心、「自分の感覚がおかしいのか?」と不安になった。
雪の音
ある静かな夜、ふと耳を澄ませると、
雪が降る音が聞こえた。
「……サラ、サラ、サラ」
不思議なのは、外を確認しても雪は降っていないこと。
降る音だけが、窓の外から聞こえてくるのだ。
気味が悪くなった私は、外に出てみた。
すると――雪の「匂い」がする。
本当に雪が降っているかのような、冷たく澄んだあの独特の匂いが漂っていた。
消えない雪の正体
私はその日を境に、雪の異変について調べ始めた。
古い図書館でこの地方の歴史を調べていると、ある古い新聞記事が目に留まった。
「1974年、町全体が大雪で孤立。住民のほとんどが遭難し、数百人が行方不明に。」
だが、驚くべきことに、現在この町には当時の行方不明者の家族が普通に暮らしている。
しかも、誰もその出来事を覚えていないのだ。
私は愕然とした。
この雪は、もしかすると――
行方不明になった人々の「記憶」なのではないか?
すべてのピースが揃った瞬間
その日の夜、再び外に出ると、やはり雪は降っていないのに降る音だけが響いている。
そして――私は見てしまった。
街の中を、雪に溶け込むように歩く「透明な人影たち」を。
彼らは誰かに会うこともなく、ただ静かに同じ道を行き来している。
私は悟った。
この雪は、消えることのない「過去の人々の存在」なのだと。
彼らの思い出、存在の痕跡が、形を変えて降り積もっているのだ。
帰る日
数ヶ月後、私は転勤を終えてその町を離れることになった。
振り返ると、雪はやはり溶けずにそこにあった。
でも、最後に気づいたことがある。
「雪が溶けない」のではなく、誰も「溶かそうとしない」だけだったのかもしれない。
きっと、この町の人たちは無意識にそれを受け入れているのだろう。
私もまた、忘れることはない。
あの消えない雪の記憶を。
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