怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

顕微鏡の中の異物 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

私は顕微鏡を覗くのが趣味だった。

大学時代に生物学の講義で初めて顕微鏡に触れて以来、身の回りのものを拡大して観察することに強い興味を持つようになった。

埃、髪の毛、紙の繊維、食べ物の断面――普通なら誰も気に留めないようなものを、顕微鏡を通して覗くと全く違う世界が広がる。

しかし、あの時見た“何か”だけは、今でも忘れられない。

【不思議なサンプル】

その日、私は特に目新しいものが見つからず、部屋の中を物色していた。

ふと窓辺に目をやると、小さな黒いシミのようなものがガラスに付着していた。

「カビ…かな?」

私は興味本位でその黒いシミを採取し、スライドガラスに乗せて顕微鏡で覗いた。

最初はただの汚れのように見えた。

しかし、ピントを微調整していくうちに――。

それは動いていた。

【動く“何か”】

カビの胞子や微生物とは明らかに違う。

細長い繊維のようなものが、ゆっくりと蠢いている。

まるで、こちらを意識しているかのような動き。

私は目を凝らし、さらに倍率を上げた。

すると――その“繊維”には、微かに形を変える小さな「目」のようなものが見えた。

「……目?」

信じられない思いで観察を続けるうちに、さらに恐ろしいことに気づいた。

その“何か”が、顕微鏡のレンズの向こう側からこちらを見返していた。

【異常な現象】

その瞬間、私はゾッとして顕微鏡から目を離した。

しかし、目の奥に焼き付いたあの「目」のようなものが頭から離れない。

気味が悪くなり、スライドガラスを捨てようとしたが、なぜか手が震えてうまく掴めない。

まるで、捨てることを拒むかのように。

仕方なくそのまま机の上に置いた。

だが――。

数時間後、机に戻ってみると、スライドガラスの上にあった黒いシミが消えていた。

【広がる“汚染”】

翌日、奇妙なことが起こり始めた。

部屋のあちこちに、あの時と同じ黒いシミが現れ始めたのだ。

壁、床、天井、果ては私の腕にまで。

そのシミは、ただの汚れではなかった。

肌に現れたシミは、確かに「動いて」いた。

細胞が腐食するような痛みと痒み。

鏡で確認すると、腕のシミが微かに脈打っているのが見えた。

【最後の観察】

私は再び顕微鏡を覗き込んだ。

今度は、自分の皮膚の一部を切り取り、スライドガラスに乗せた。

恐怖で手が震えながらも、観察を始めると――。

そこには、前に見たのと同じ「目」のようなものが、無数にうごめいていた。

こちらを見返し、笑っているようにすら感じた。

【エピローグ】

私は今、全身を覆う黒いシミに侵食されている。

この「何か」が何なのか、もう分からない。

ただ一つ確かなのは――。

顕微鏡で覗き込んだ瞬間から、私は見ていたのではなく、“見られて”いた。

もしあなたが顕微鏡を使う機会があるなら、決して「見返してくる何か」と目を合わせてはいけない。

それは、すでにこちら側にいるかもしれないから。



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