怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

声が聞こえる部屋 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

大学進学を機に、一人暮らしを始めた。

引っ越したのは、古びたワンルームのアパート。

家賃が安く、駅からも近い――それだけで決めたが、そこには“何か”があった。

引っ越して間もなく、私は「聞こえるはずのない声」を聞くようになった。

【最初の声】

新生活の興奮も落ち着いたある夜。

ベッドでスマホをいじっていると――。

「……ねぇ」

かすかな声が聞こえた。

振り返っても、もちろん誰もいない。

気のせいかと思い、再びスマホに目を戻す。

すると、今度は耳元で、はっきりと。

「……見えてるよ」

心臓が跳ね上がった。

部屋には私しかいない。

けれど、その声は確かにすぐそばで聞こえた。

【声の正体を探る】

次の日、気味が悪くて大学の友人に相談した。

「疲れてるだけじゃないか?」

軽く笑い飛ばされたが、どうしても気になった。

そこで、夜中に部屋の中をくまなく探してみた。

押入れ、クローゼット、床下収納、天井の隅――。

当然、誰もいない。

しかし、その日から“声”は頻繁に聞こえるようになった。

「こっち、見て」
「気づいてるんでしょ?」

【奇妙な事実】

ある日、ふと気づいた。

声が聞こえるのは、決まって“同じ場所”にいる時だけ。

それは――部屋の中央、決まった一点。

そこに立つと、まるで空気が重くなったような感覚がする。

思い切って、その床を剥がしてみることにした。

古いフローリングを剥がすと、下には何もない――はずだった。

しかし、床板の隙間に小さな紙切れが挟まっていた。

そこには震える手書きで、こう書かれていた。

「ここにいるよ」

【最後の声】

それ以来、声はさらに鮮明になった。

夜になると、部屋中に響き渡る。

「一緒にいよう」
「どこにも行かないで」

私は限界だった。

すぐに退去を決意し、荷物をまとめた。

しかし――玄関を出ようとした瞬間、背後から。

「行かないで」

強烈な引力のような力が、私の体を後ろへ引っ張る。

振り向くと――誰もいない。

それでも、見えない何かが確かに“そこ”にいた。

【エピローグ】

私はそのアパートを逃げるように退去した。

数日後、管理会社に鍵を返す際、思い切って聞いてみた。

「あの部屋…何かありましたか?」

担当者は一瞬だけ表情を曇らせ、こう答えた。

「あの部屋、前の住人が……失踪したんですよ。」

「遺体も、痕跡も、何も見つからなかったんです。」

それを聞いた瞬間、私は凍りついた。

なぜなら――今もまだ、耳元で囁く声が聞こえていたから。

「一緒にいよう、ね?」



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