怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

顕微鏡の中の奇妙な生き物 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

私は趣味で顕微鏡観察を楽しんでいる。

仕事は地味な事務職だが、休日には自宅の小さなデスクに座り、日常の中の小さな世界を覗くことで気分転換をしていた。

土の粒、繊維、葉の表面、川の水の中の微生物――その世界は、どれも独特の美しさと神秘に満ちている。

だが、あの日見つけた“それ”だけは、今でも説明がつかない。

【最初の発見】

その日は、近所の公園で拾った苔を顕微鏡で観察していた。

苔の中には小さな虫や繊維が絡み合い、ミクロの森のような景色が広がっていた。

しかし、ふとレンズの端に「動く何か」が映り込んだ。

微生物特有の単純な形ではない。

半透明で、まるで糸のように細長い体をうねらせている。

「なんだこれ…?」

私は興味をそそられ、倍率を上げてみた。

【奇妙な構造】

拡大された“それ”は、見たこともない形をしていた。

無数の触手のような繊維が中心から放射状に広がっている。

まるで小さなクラゲのようにも見えたが、水中でもないのに動いているのが不思議だった。

さらに観察を続けると、体の表面が微細な模様で覆われていることに気づいた。

規則的な幾何学模様。

それはまるで、人工的に作られた機械部品のように精密だった。

「こんな生き物、存在するのか…?」

私はスケッチブックを取り出し、慎重にその形状を描き始めた。

【観察の記録】

数日間、私は仕事から帰るたびにその奇妙な生物を観察した。

不思議なことに、“それ”は死ぬことも、弱ることもなかった。

通常、微生物は培養液や湿度管理が必要だが、特に何もしなくても活動を続けていた。

さらに観察を進めるうちに、驚くべきことに気づいた。

“それ”が少しずつ「形」を変えている。

最初は単純な繊維状だったのが、やがて複雑な立体構造へと進化していった。

まるで、何かを「模倣」しているかのように。

【異変】

5日目の夜。

観察を続ける中で、奇妙な異変に気づいた。

スライドガラスの範囲を超えて、“それ”が広がり始めていた。

通常、顕微鏡で観察する微生物はスライドガラスの範囲から動くことはない。

しかし、“それ”はまるでガラスの境界を無視するかのように、さらに拡大していた。

「おかしい…」

私は慌てて顕微鏡から目を離し、スライドガラスを肉眼で確認した。

――そこには、何も見えなかった。

【最後の観察】

不安になりながらも再び顕微鏡を覗くと、“それ”はさらに成長していた。

繊維は絡み合い、複雑な構造物のような形へと変化していた。

もはや、単なる生物というよりも、精密な機械の内部構造のようなものに見えた。

翌朝、私は決心してスライドガラスを廃棄することにした。

しかし――。

スライドガラスは、そこにはなかった。

机の上に置いておいたはずのガラス片は消え、代わりに顕微鏡のレンズには細かな傷のような模様が刻まれていた。

その模様は、まるで――

“それ”がレンズの内側に「移動」したかのように見えた。

【エピローグ】

今でも、私は顕微鏡を捨てられずにいる。

なぜなら、レンズを覗き込むと、あの奇妙な生き物がまだそこにいるからだ。

まるで、レンズの中で新しい世界を築いているかのように。

もしあなたが顕微鏡を持っているなら、ふとした瞬間に覗いてみてほしい。

そこには、私が見つけた“それ”がいるかもしれない。



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