怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

更新される記憶 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

ある日、奇妙なことに気がついた。

「記憶が、少しずつ書き換わっている。」

最初は気のせいかと思った。

でも、確かに覚えていたことが、少しずつ変わっているのだ。

それは、まるで何者かによって“更新”されているかのように。

【最初の違和感】

朝、出勤途中に何気なくコンビニに寄った。

レジの店員は、いつも感じのいい青年だった。

だが、その日は別の女性店員が立っていた。

「あれ? いつもの人、いないんですか?」

すると彼女は不思議そうに首を傾げた。

「いつもの人?」

「ほら、背の高い男の人。よく夜勤に入ってる――」

「うちにそんな人、いませんよ?」

背筋がゾッとした。

でも、そんなはずはない。

毎朝ここに寄って、彼と挨拶を交わしていた記憶がある。

だが――思い返してみると、彼の顔がぼんやりとして、どうしてもはっきり思い出せなかった。

まるで、記憶から削除されていくように。

【更新される記憶】

次の日、会社でさらに違和感を覚えた。

同期のAが、新しいプロジェクトの資料を作っていた。

「A、それ俺と一緒にやる予定だったよな?」

すると、Aは怪訝な顔をして言った。

「何言ってんだ? 最初からBと組んでたろ?」

「いや、昨日は俺と一緒にやるって……」

「昨日? 何の話だ?」

どういうことだ?

スマホのメモを確認すると――

確かに、Aと組んでいたはずの予定が、Bの名前に変わっていた。

「おかしい……。でも、俺の勘違いなのか?」

そう思おうとしたが、その日からどんどん記憶が更新されていくようになった。

【存在しない人】

数日後、決定的な異変が起こった。

会社帰りに久しぶりに母に電話した。

「なあ、兄貴って元気にしてる?」

すると、母は不思議そうに言った。

「……兄貴? うちにはあんたしかいないでしょう?」

「は? 何言ってんの?」

「昔から一人っ子だったじゃない。」

そんなはずがない。

俺には、兄がいた。

いや、いたはずだ。

だけど――

頭の中で思い出そうとすると、兄の顔がどうしても思い出せない。

名前すらも。

「……嘘だろ?」

部屋に帰り、アルバムを開いた。

しかし、そこには兄の写真が一枚もなかった。

まるで、最初から存在しなかったかのように。

【エピローグ】

それから、記憶の“更新”は続いている。

友人が消え、家族が変わり、過去の出来事も書き換えられていく。

俺がどこで何を間違えたのか、わからない。

ただ、一つだけ確かなことがある。

俺の記憶は、今も何者かによって“更新”され続けている。

そして、次に消えるのは――

俺自身なのかもしれない。

もし、あなたの記憶が少しでも「変だ」と思ったら――

それは、“更新”の前兆かもしれない。



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