「君に、これを“譲りたい”んだ。」
会社の上司である藤本課長が、突然そんなことを言い出したのは、金曜日の夜だった。
課長とはそれほど親しいわけではない。ただ、長くこの会社に勤めていた彼は、部下思いで面倒見の良い人物だった。
「……何を、ですか?」
「うまく説明できないんだが……これは、俺がある人から“譲られた”ものなんだ。」
そう言いながら、課長はスーツの内ポケットから、一枚の古びた紙を取り出した。
それは、何かの契約書のようだった。
目次
奇妙な契約書
私は興味本位でその紙を受け取った。
そこには、こう書かれていた。
「本契約に基づき、本件の権利および義務を、以下の者へ移譲する。」
譲渡者:藤本康弘
被譲渡者:(空欄)
「……これは何ですか?」
「俺も、最初はよくわからなかった。ただ、“前任者”から譲られたんだ。そして、気がついたら……」
課長はうつむき、声をひそめた。
「逃げられなくなっていた。」
課長の話
藤本課長は、10年前にこの契約を受け取ったという。
その日から、彼の周りでは奇妙な出来事が続くようになったらしい。
・深夜になると、知らない番号から無言電話がかかってくる。
・自宅のポストに、自分の知らない「転居通知」が投函されている。
・会社のデスクに、自分が書いた覚えのない書類が置かれている。
「最初は、ただのいたずらだと思っていた。でも、次第に……」
課長は震える声で続けた。
「鏡に映る自分が、ほんの少しだけ“遅れて”動くようになったんだ。」
移譲の意味
「もう限界なんだ。頼む、この契約を引き継いでくれ。」
課長は必死だった。
だが、私はどうしても納得がいかなかった。
「この“移譲”って、いったい何なんですか?」
「……俺にもわからない。ただ、誰かに“譲る”ことで、やっと解放されるらしい。」
課長の目の下には、深いクマができていた。
「俺も、前任者から無理やり渡された。でも、それを受け取った途端……」
「途端?」
「その人は、次の日から会社に来なくなった。」
翌日のニュース
次の日、会社で衝撃的なニュースが流れた。
藤本課長が、昨夜、自宅で亡くなっていた。
原因は不明。外傷もなく、争った形跡もなかった。
ただ、部屋の机の上には、一枚の紙が置かれていたという。
それは――
「本契約に基づき、本件の権利および義務を、以下の者へ移譲する。」
そして、被譲渡者の欄には、私の名前が書かれていた。
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