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幽霊ビルの最上階──エレベーターが開く先 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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忘れ去られたビル

俺の職場の近くに、一つの奇妙なビルがある。

都心のオフィス街の一角に建つ、古びた10階建てのビル。

しかし、誰も出入りしているのを見たことがない。

それどころか、窓ガラスは汚れ、看板もなく、明かりすらつかない。

「幽霊ビル」──そう呼ばれていた。

気になって調べてみたが、そのビルに関する情報はほとんどなかった。

登記簿には会社の名前があるが、どうやら何年も前に倒産したらしい。

なら、なぜ取り壊されないのか? なぜ、そのまま放置されているのか?

俺は、興味本位でそのビルを確かめに行くことにした。

エレベーターの異変

昼休み、俺は幽霊ビルの前に立ってみた。

近づくと、ビルの入り口は開いていた。

中に入ると何もないロビーが広がっていた。

やっぱり誰も使っていないのだろう。

「つまんねぇな……」

そう思って帰ろうとしたとき、エレベーターが開いた。

──ビルの中には誰もいないはずなのに。

驚いた俺は、エレベーターの中を覗き込んだ。

ボタンパネルはすべて消灯している。

なのに、なぜか開いている。

不気味さを感じながらも、俺は好奇心に負けてエレベーターに乗り込んだ。

10階に行くな

「……動かないな」

ボタンを押してみても、エレベーターは反応しない。

「やっぱり壊れてるのか」

そう思って降りようとしたその瞬間、

勝手にボタンが押された。

「10階」

誰もいないはずのエレベーターで、自動的に10階が選ばれたのだ。

エレベーターはゆっくりと上昇し始める。

「やばい、これ……」

俺は急いで「開く」ボタンを連打した。

しかし、扉は閉じたまま。

それどころか、途中の階に止まることなく、一直線に10階へ向かっている。

最上階の異変

「……!」

エレベーターが10階に到着すると、扉がゆっくりと開いた。

目の前に広がるのは、真っ暗な廊下。

奥の方に、かすかに「カタカタ……」と何かが動く音がする。

何かいる。

「降りるな」

直感が叫んでいた。

俺は慌てて「閉じる」ボタンを押した。

しかし──

エレベーターの扉は閉まらない。

その間にも、音が近づいてくる。

カタカタ……カタカタ……

そして──

扉の前に立つもの

カタ……カタ……

音が止まった。

気づくと、扉のすぐ前に何かが立っている。

女の姿をした"何か"だった。

顔は髪で隠れ、着ている服はぼろぼろ。

異様なのは……首が異常に長く、ゆっくりと傾いていることだった。

「……は……い……れ……」

女の唇が動いた瞬間、エレベーターの中に寒気が流れ込んだ。

俺は反射的に身を引いた。

そして、なぜかポケットに入っていたスマホのカメラを向けた。

その瞬間──

エレベーターの強制降下

バチンッ!!

エレベーターが急降下した。

俺は立っているのがやっとだった。

「やばい、死ぬ!!」

恐怖の中、俺は目をつぶった。

エレベーターの扉が開くと、ビルの1階に戻っていた。

俺は慌てて外に飛び出した。

振り返ると、エレベーターは元の静けさを取り戻していた。

「……何だったんだ、あれ」

それ以来、俺は二度とそのビルには近づいていない。

だが、今でもたまに思い出す。

──あの時、もしエレベーターの扉が閉まらなかったら?

もし、あの女が乗り込んできていたら?

……考えたくもない。




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