怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

聞こえるはずのない犬の鳴き声 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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大学を卒業して一人暮らしを始めたばかりの頃、私はあるアパートに引っ越した。

築年数はそこそこ古いが、家賃が安く、駅からも近い。特に不満はなかった。

ただ、一つだけ気になったのは、夜になると聞こえる犬の鳴き声だった。

聞こえる鳴き声

夜、ベッドに横になっていると、どこからともなく「クゥーン、クゥーン」と、か細い犬の鳴き声が聞こえてくる。

「……隣の部屋の犬かな?」

そう思っていたが、アパートのペット飼育は禁止のはずだった。

それに、鳴き声は毎晩決まって午前2時ぴったりに聞こえてくる。

少し気味が悪いと思いつつも、特に害があるわけではないので、そのまま気にしないことにした。

だが、それから数日後――私は異変に気がついた。

鳴き声の位置が、少しずつ近づいてきている。

室内に響く音

最初は遠くから聞こえていた鳴き声が、ある晩、部屋のすぐ外――玄関の前から聞こえてきた。

「……まさか。」

恐る恐るドアの覗き穴を覗く。

だが、そこには誰もいなかった。

それなのに、鳴き声はすぐそこから聞こえる。

「クゥーン……クゥーン……」

ドアを開けて確かめる勇気はなかった。

そのまま布団をかぶり、無理やり眠りについた。

足元からの気配

さらに数日後、とうとう部屋の中で鳴き声が聞こえ始めた。

「クゥーン……」

音のするほうを見ると、ベッドの足元から聞こえている。

私は恐る恐るスマホのライトを向けた。

そこには――

何もいない。

だが、確かにそこから鳴き声がする。

私は足元に視線を向けたまま、息をひそめた。

すると、何かが「スッ」と動いた気がした。

アパートの過去

次の日、どうしても気になって、管理人にこの部屋のことを聞いてみた。

「……ここに住んでた人、何かありました?」

すると、管理人は少し言いづらそうに口を開いた。

「実はな……前の住人が、飼っていた犬をこの部屋で死なせてしまったらしいんだ。」

「……え?」

「本当はペット禁止なんだがな。こっそり飼ってたらしい。でも、その犬は病気になって……助けられなかったんだそうだ。」

私は背筋が凍った。

「クゥーン……クゥーン……」

あの鳴き声は、もしかすると――

ずっと飼い主を探している、亡くなった犬のものだったのかもしれない。



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