怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

鳴き声の主はどこに? 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

私は都内の古いアパートに住んでいる。

築40年ほどの木造建築で、夜になると隣の部屋の物音がよく聞こえる。

だが、一つだけ不思議なことがあった。

夜中になると、猫と犬の鳴き声が聞こえるのだ。

【鳴き声の違和感】

最初に気づいたのは、引っ越してきて一週間ほど経った頃だった。

「ニャア……」

「ワン……」

夜中の1時頃、どこからともなく聞こえてくる。

「近所で飼ってるのかな?」

そう思ったが、妙なことに気づいた。

犬と猫が同時に鳴くのに、声がまったく重ならない。

猫が鳴き終わると、犬が鳴く。

犬が鳴き終わると、猫が鳴く。

まるで交互に鳴きながら、何かを伝えようとしているようだった。

【確かめるべきか】

気になって、次の夜、アパートの外に出てみた。

鳴き声が聞こえてくる方向へ向かう。

駐車場の隅、隣の古びた家の庭先――。

しかし、どこにも猫も犬もいない。

それどころか、鳴き声のする場所に近づくと、その声は少し遠ざかるのだった。

「おかしいな……。」

鳴き声は確かに近くで聞こえるのに、姿がまったく見えない。

【アパートの住人の話】

翌日、同じアパートに住む年配の男性と廊下で会った。

思い切って聞いてみた。

「あの……夜になると、猫と犬の鳴き声が聞こえませんか?」

すると、男性は一瞬ギョッとした表情を浮かべた。

そして、小さな声でこう言った。

「やっぱり……聞こえるのか。」

「え?」

「ここに住む人は、たまに聞こえるらしい。でも、聞こえた人はみんな、すぐにこのアパートを出て行くんだよ。」

背筋がゾクリとした。

「それって、どういうことですか?」

男性はそれ以上何も言わず、そそくさと部屋へ戻っていった。

【鳴き声の正体】

それから数日後、私は夜中にふと目を覚ました。

「ニャア……」

部屋の中で聞こえた気がした。

「まさか……。」

スマホのライトをつけ、辺りを見回す。

どこにも猫も犬もいない。

だが、ふと床を見ると――。

そこには、猫と犬の小さな足跡が、畳の上にくっきりと残っていた。

【エピローグ】

それ以来、私はそのアパートを引っ越した。

今では鳴き声は聞こえない。

だが時々、何気なく目を閉じると――。

「ニャア……」
「ワン……」

あの奇妙な鳴き声が、耳の奥でこだまする気がするのだ。

あれは、いったい何を伝えようとしていたのだろう?

もしかすると――今でも、あのアパートのどこかで、鳴き続けているのかもしれない。



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