目次
終電を逃した夜
その夜、俺は仕事が長引き、終電を逃してしまった。
タクシーを使うほどの距離でもないが、歩くには遠い。
ため息をつきながら駅前でスマホを確認していると、一本のバスがゆっくりと近づいてきた。
「……こんな時間に?」
時刻表を見ても、それらしいバスはない。
「特別運行」と書かれた行き先表示がぼんやりと光っている。
妙に静かで、人影もない。
「まあ、家の近くまで行くなら乗ってもいいか……」
そう思い、俺は迷わず乗り込んだ。
乗客は俺だけ
バスの中は妙に古めかしい。
座席は深い青色の布張りで、天井の照明は白熱灯のようなやわらかな光を放っている。
運転手は無言のまま、ゆっくりと扉を閉めた。
ほかの乗客はいない。
「……まあ、終電後だし、こんなもんか」
俺は適当な席に座り、ふっと一息ついた。
エンジン音もほとんど聞こえず、バスは静かに走り出す。
しかし、ふと違和感を覚えた。
「このバス……どこを走ってるんだ?」
知らない景色
普段なら賑やかな商店街を抜けるはずなのに、窓の外には見覚えのない風景が広がっていた。
街灯もほとんどなく、古びた住宅や空き地が続く。
「こんな道、あったか……?」
スマホで現在地を確認しようとしたが、圏外になっていた。
さっきまで電波が入っていたのに……。
「……変だな」
次第に、不安が募っていく。
どこにも停まらないバス
バスはしばらく走り続けているが、どの停留所にも停まらない。
「おかしい……」
俺は意を決して運転手に話しかけようとした。
しかし、後ろから運転席を覗き込んだ瞬間、ゾッとした。
運転手の顔が……ない。
帽子と制服を着た人間のはずなのに、顔の部分がぼんやりとぼやけている。
なのに、バスは滑るように静かに走り続けていた。
他の乗客?
恐怖で凍りついていると、ふと背後から気配を感じた。
俺以外に誰もいないはずなのに……。
「次……どこ……?」
かすれた声が耳元で囁いた。
慌てて振り向くと、すぐ後ろの座席に知らない人影が座っていた。
青白い顔をしたスーツ姿の男が、こちらをじっと見つめている。
その顔に、見覚えがあった。
数年前、事故で亡くなった同僚だった。
降りなければならない
もうダメだ。
ここにいたら、戻れなくなる。
「降ります!」
俺は慌てて降車ボタンを押した。
だが、ボタンは無反応。
もう一度押すが、何も起こらない。
「降ろしてください!!」
必死に叫ぶと、バスのスピーカーから低い声が響いた。
「次は……終点です」
終点? どこだ?
このまま乗り続けたら……。
そう思った瞬間、扉が開いた。
戻れたのか?
俺は躊躇なく飛び降りた。
バスは無音のまま、静かに走り去っていく。
辺りを見回すと、そこは見覚えのある場所だった。
……最寄り駅の前。
腕時計を見ると、終電が出た直後の時間だった。
「……なんだったんだ?」
スマホの電波も戻っている。
俺は放心したまま、タクシーを拾って帰った。
"特別運行"
翌日、会社で昨日の出来事を話した。
しかし、みんな「そんなバス路線は存在しない」と言う。
ネットで調べても、「特別運行」のバスなんてどこにもない。
だが、あのバスの座席にあの同僚が座っていたのは間違いない。
もしかして、俺も"そちら側"に連れて行かれるはずだったのか……?
今でも、終電を逃した夜には、あのバスが現れるんじゃないかと思うと、ゾッとする。
もし、深夜に"特別運行"と書かれたバスを見つけても……絶対に乗ってはいけない。
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