怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

双眼鏡の向こうの視界 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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プロローグ

俺は昔から、遠くの景色を眺めるのが好きだった。

特に、双眼鏡を覗いて見る世界 には、不思議な魅力があった。

だが、最近――

双眼鏡で見る景色が、自分の目で見ている気がしなくなってきた。

まるで、誰か別の視点を覗いている ような感覚がするのだ。

第一章:見慣れた景色の違和感

ある日、古びた双眼鏡を手に入れた。

アンティークショップで見つけたもので、妙に手になじむ感触があった。

家のベランダから、その双眼鏡を使って町を眺めてみる。

いつもと同じ風景のはずだった。

だが――

「……あれ?」

俺の視界の中で、町の人々の動きが、微妙に「ずれて」いた。

たとえば、道を歩く人の足の運びが妙にぎこちない。

車が止まるタイミングが、俺の目で見ているものと微妙に違う。

まるで、双眼鏡の向こうの世界が、ほんの少し遅れているかのようだった。

第二章:他人の視点

さらに奇妙なことが起こったのは、数日後のことだ。

その日もベランダで双眼鏡を覗いていたとき、ふとした瞬間に違和感が襲ってきた。

双眼鏡越しに見ている景色が、自分が立っている場所と違う気がする。

「ん……?」

俺は確かにベランダに立っている。

だが、双眼鏡で見える視界は――

地上からの目線だった。

つまり、俺は「高い場所」から景色を見ているはずなのに、双眼鏡の向こうでは地面と同じ高さの視点になっている。

まるで、誰か別の人間の目を通して景色を見ているようだった。

第三章:視線の移動

恐る恐る、双眼鏡を動かしてみる。

すると――

俺の視線は、まるで双眼鏡の向こうにいる「誰か」が動かしているように感じた。

「これは……俺が動かしているんだよな……?」

だが、違う。

自分の手が動かしているはずなのに、視界が思った方向とは別に動いてしまう。

まるで、双眼鏡の向こう側に「もう一人の自分」がいて、勝手に景色を見回しているようだった。

そして、その「視点」が、ふと俺の住むアパートの方向を向いた。

双眼鏡の中で、俺の部屋が見える。

カーテンを開け放った窓。

そこに――

誰かが立っていた。

俺が今、立っているはずの場所に。

第四章:覗かれている感覚

一瞬、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。

「……俺?」

双眼鏡の中の視点が、少しずつズームインする。

窓の向こう側に立っているのは――

俺だった。

双眼鏡を覗いている俺が、そこに立っている。

だが、その「俺」は、微動だにせず、こちらをじっと見つめていた。

まるで、「向こう側の俺」が、俺の視点を通して何かを確かめているように――。

恐怖に駆られ、俺は勢いよく双眼鏡を外した。

すると――

窓には、何もいなかった。

結末:消えない感覚

それ以来、俺はその双眼鏡を触っていない。

だが、時々――

誰かの目を通して世界を見ているような感覚に襲われる。

テレビを見ているときも。

駅で電車を待っているときも。

まるで、「俺の目」を、どこかの誰かが覗いているような気がするのだ。

……もしかすると、俺は「双眼鏡」を使って、誰かの視点を覗いていたのではなく――

誰かが、俺の目を通して世界を見ていたのではないか?

それに気づいた瞬間、俺は思わず目を閉じた。

だが、まぶたの裏で、確かに感じた。

俺の目の奥から――

誰かが、俺を見ている気配を。



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