怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

増えていく目 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

大学生の頃、私はある古本屋で奇妙な本を見つけた。

埃をかぶった革表紙のその本には、タイトルすら書かれていなかった。

興味を引かれ、何気なくページをめくった瞬間――

無数の「目」のイラストが描かれているのが目に飛び込んできた。

それは写実的で、生々しく、まるで今にも動き出しそうな目だった。

ぞっとしたが、なぜかその本から目を離せなかった。

そして、その日から――私の身の回りで奇妙なことが起こり始めた。

【異変】

翌朝、目を覚ますと手のひらに黒いインクのようなシミがついていた。

「昨日、本を触ったからかな……?」

特に気にせず、洗い流そうとしたが、シミはなかなか落ちなかった。

それどころか、よく見るとそれは単なるシミではなく、目の形をしていた。

「なんだこれ……」

不気味に思いながらも、その日は大学へ向かった。

しかし、授業中、筆箱を開いた瞬間、私は凍りついた。

ノートの端、教科書の余白、ペンのキャップ――すべてに「目」の落書きが増えていた。

私はそんなものを描いた覚えがない。

それなのに、気づくたびに数が増えていく。

【「目」が現れる】

その日から、「目」の現象はどんどんエスカレートしていった。

・朝起きると、壁に目の形のシミができている。
・スマホの画面に、目のような模様が浮かび上がる。
・手帳の白紙のページに、いつの間にか無数の「目」が描かれている。

極めつけは、シャワーを浴びていたときだった。

鏡を何気なく見た瞬間、私は息を飲んだ。

自分の体に、目があった。

腕、肩、足、腹――あちこちに「目」のような模様が浮かんでいた。

しかも、昨日より確実に数が増えている。

「これ……本のせいか?」

そう思い、あの古本を捨てることにした。

しかし、いざ本棚を探すと――

本が消えていた。

【最期の「目」】

それからというもの、私は外に出ることすら恐ろしくなった。

体のどこにでも「目」が浮かび上がるようになったからだ。

医者に行こうとしたが、こんな話を信じてもらえるはずがない。

そして――ある夜、私は決定的な異変に気づいた。

鏡の前に立つと、顔に違和感を覚えた。

目の下に、なにかがある。

恐る恐る触れると――

そこには、余分な「目」ができていた。

鏡の中の私は、三つの目を持っていた。

その瞬間、頭の中で誰かの声が響いた。

「まだ足りない、もっと増やさなきゃ」

【エピローグ】

私は、それ以来行方不明になったらしい。

私の部屋には、私が残した無数の「目」のイラストが残されていたという。

しかし――

誰も知らないはずの「目」の落書きが、今も増え続けているらしい。

もし、あなたの手やノートの隅に「目」のような模様を見つけたら――

それは、すでにあなたの番が来たということかもしれない。



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