怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

奇妙な薬局の薬 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

その薬局は、駅前のどこにでもあるような店だった。

仕事帰りに頭痛がひどくなり、ふと立ち寄っただけのつもりだった。

店内は狭く、古びた棚には色褪せたラベルの薬が並んでいる。

レジには、小柄な店主らしき老人が座っていた。

「頭痛薬をください。」

そう言うと、老人はニヤリと笑い、奥の棚から小さな瓶を取り出した。

「これが、よく効く薬じゃよ。」

私はラベルを見たが、メーカー名も成分表示もない。

「……市販の薬とは違うんですか?」

「ふむ、お主にぴったりの薬じゃ。」

妙に自信ありげな口調だったが、私は疲れていたせいか、深く考えずにその薬を買った。

――それが、すべての始まりだった。

【奇妙な効き目】

帰宅してすぐに薬を飲むと、頭痛はたちまち消えた。

「すごいな……。」

市販の薬よりも即効性があり、副作用も感じない。

翌日も気分が良かった。

「こんなに効くなら、常備しておこうかな……。」

そう思い、再びあの薬局へ向かった。

しかし――

そこには、何もなかった。

薬局があった場所は、ただの空き地になっていたのだ。

「昨日、ここに店があったはずなのに……?」

信じられずに何度も周囲を確認したが、どう見ても薬局があった痕跡はない。

まるで最初から存在しなかったかのように。

【さらに奇妙なこと】

それから数日、私はある異変に気づいた。

「体が軽すぎる……?」

どれだけ仕事をしても疲れない。

夜更かししても眠くならない。

それどころか――

腹も減らないし、水もほとんど飲んでいない。

「これは……おかしいぞ……?」

しかし、さらに異常なことに気づいたのは、鏡を見たときだった。

「……目の色が変わってる?」

黒かったはずの瞳が、薄い灰色に変わっていた。

まるで、何か別のものになりかけているような――。

【元に戻れるのか】

不安になり、薬の瓶を確認する。

しかし、成分表も何も書かれていない。

「どうすればいいんだ……?」

あの薬局に戻ろうにも、もう存在しない。

試しに、薬をもう一錠飲んでみることにした。

すると――

急激な頭痛と眠気に襲われ、意識が遠のいた。

【エピローグ】

目が覚めたとき、私は自分のベッドにいた。

「あれ……?」

頭痛は消え、体も普通に戻っている。

まるで、すべてが夢だったかのように。

しかし、ふと机の上を見ると――

薬の瓶が、そこに置かれていた。

ただし、瓶の中身はすべて空になっていた。

「……全部、飲んだのか?」

だが、私は最後の一錠を飲んだ記憶しかない。

じゃあ、残りの薬は、一体誰が飲んだのか?

それとも――

今の私は、本当に"元の自分"なのだろうか?

もし、どこかで見たことのない薬局を見つけたら――

その薬を、絶対に飲んではいけない。

それは、人間のための薬とは限らないのだから。



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