怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

見えないはずのもの 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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大学生の頃、バイト先の先輩からこんな話を聞いた。

「お前さ、見えないものが見えたことってあるか?」

オカルト好きな先輩だったから、またいつもの怪談話かと思った。

「いや、ないですけど。」

「そうか……でも、急に見えるようになったらどうする?」

冗談めかして笑いながら話していたが、先輩の表情はどこか真剣だった。

「俺、昔ちょっとだけ、見えちまったことがあるんだよ。」

見えてはいけないもの

「小学生の頃、ある日突然、普通の人には見えないものが見えるようになったんだ。」

「例えば?」

「うまく説明できないけど……道端で誰もいないのに“人が立ってる”ような感じがするんだよ。」

先輩は、少し間を置いて続けた。

「最初は気のせいだと思ってた。でも、そのうち……もっとはっきり見えるようになった。」

「どんなふうに?」

「たとえば、学校の教室でさ――黒板の前に、誰もいないはずなのに、そこに立ってるやつがいるのがわかるんだよ。」

「え……?」

「ただ、俺以外のやつには見えてない。先生もクラスメイトも、何も気づいてないんだ。」

ゾッとした。

「そいつは、何をしてるんですか?」

「動かない。ただ、じっと誰かを見てる。」

見えてはいけないものの視線

「ある日、ふと気づいたんだ。」

「何に?」

「そいつらの視線が、全部俺に向いてることに。」

先輩は低い声で言った。

「最初は気のせいかと思った。でも、どこに行っても、俺が動くたびに“そいつら”の顔がこっちを向く。」

「……それ、何なんですか?」

「わからない。でも、あるとき試しに、クラスメイトにこう言ったんだ。」

『そこに、何か見えない?』

「そしたら?」

「そいつ、キョトンとして、何もないって言ったよ。」

「……じゃあ、本当に先輩にしか見えてなかった?」

「……いや。」

先輩は、一瞬口をつぐんだ後、こう続けた。

「そいつはすぐに倒れて、次の日から学校に来なくなった。」

消えた視界

「それから、俺はその“見えないはずのもの”の視線を、ますます感じるようになった。」

「でもな、不思議なことに、ある日突然、何も見えなくなったんだ。」

「どういうことです?」

「気づいたら、もう視界に“そいつら”はいなくなってた。」

私はほっとした。

「それなら、よかったじゃないですか。」

「……本当に、そう思うか?」

「え?」

先輩は、不気味な笑みを浮かべて言った。

「“見えなくなった”んじゃなくて、“見えない場所に行っただけ”だったら?」

その言葉を聞いた瞬間、急に背後がひどく寒く感じた。

まるで――

“何か”が、すぐ後ろに立っているような気がして。



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