怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

誰の視点で見ているのか──奇妙な視界のズレ 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

大学時代の友人に、異常なほど視力が良い男がいた。

彼の名前は藤井。

普通の視力検査では測定不能で、医者も驚くほどの視力を持っていた。

遠くのビルの小さな文字まで読めるし、夜でも猫の目のように周囲を見渡せる。

「お前、すげえな!」と感心していたが――

彼の口から出たのは、恐ろしい言葉だった。

「……本当は、視えすぎるのも怖いんだよ。」

【見えてはいけないもの】

ある日、藤井が極端に怯えた顔で大学に来た。

「昨日さ……帰り道で“おかしなもの”を見たんだ。」

詳しく聞くと、こうだった。

夜道を歩いていた藤井は、ふと視線を感じて前方を見た。

すると、電柱の影に誰かが立っていた。

「普通の人間に見えた?」

「いや……“人間みたいなもの”だった。」

「みたいな、って?」

藤井は震える声で言った。

「そいつ、顔が……全部“眼”だったんだよ。」

【異形の者】

全身がボロボロの布で覆われ、顔の皮膚がすべて剥がれ落ちたような姿。

そこには、無数の“眼”がぎっしりと並んでいた。

その“眼”は、一斉に藤井を見つめていたという。

「すぐに目を逸らしたけど……まだ視線を感じるんだ。」

「いや、気のせいだろ……?」

私は笑い飛ばしたが、藤井は真剣な表情でこう言った。

「お前には見えないかもしれない。でも、あいつは確実に俺を見てる。」

その時、私はふと気づいた。

藤井の右目が、異常に充血している。

【増えていく眼】

それから藤井は、日に日に様子がおかしくなっていった。

常にサングラスをかけ、部屋のカーテンも閉め切っている。

「もう……どこを見ても“眼”がいる。」

「見えすぎるせいだよ……!」

焦点が定まらない彼の視線は、いつも何かを避けるようだった。

そして、ある日、藤井は姿を消した。

【エピローグ】

数週間後、彼のアパートを訪れた。

部屋は荒れ果て、壁一面に「眼」の絵が無数に描かれていた。

そして――

床の上に、人間の眼球が一つだけ落ちていた。

藤井のものだったのか、それとも――

それ以来、彼の消息は不明のままだ。

だが、それからというもの、私も視線を感じるようになった。

もしかすると、あの夜、藤井が見た“眼の男”は……

今度は私を見ているのかもしれない。

もしあなたが「何かに見られている」と感じたら――

絶対に振り向いてはいけない。

視えてしまったら、もう逃げられないのだから。



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