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「霊子降臨」——読んではいけない本 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

大学の図書館で、俺は奇妙な本を見つけた。

背表紙には、かすれた金文字で「霊子降臨」と書かれている。

著者名も出版社も記されておらず、蔵書記録にも載っていない。

ページをめくると、古びた和紙に、黒々とした筆文字で何かが書かれていた。

「これは……呪文か?」

意味不明な漢字や、見たこともない記号が羅列されている。

何となく興味を引かれ、俺はその場で読み進めてしまった。

そして、その夜から——

俺は、悪夢を見るようになった。

【悪夢の始まり】

最初の夜。

夢の中で、俺はどこかの暗い部屋に立っていた。

四方の壁には、おびただしい数の経文が貼られている。

「……ここはどこだ?」

すると、壁の一角がズルリと剥がれ落ちた。

暗闇の奥から、何かが這い出してくる。

白い手。細長い指。異様に大きな眼。

それは、"人間の形をしている"何かだった。

「——読んだね?」

次の瞬間、俺は自分の首を掴まれる感覚に襲われた。

「う……!」

息ができない。

もがいていると、耳元で囁き声が聞こえた。

「続きを読め。」

そこで目が覚めた。

【次のページ】

目覚めると、冷や汗で服がびっしょりと濡れていた。

「夢、だよな……?」

だが、妙な違和感を覚えた。

枕元の机の上に置いたはずの本、「霊子降臨」が、勝手に開かれていたのだ。

「昨日は閉じたはず……。」

開かれていたのは、俺が読んだところの続き。

まるで、次のページを読めと言わんばかりに。

俺は悪寒を覚え、本を閉じてカバンの中に押し込んだ。

だが——

その日も、悪夢を見た。

【霊子の降臨】

今度の夢では、俺は巨大な神社の境内にいた。

夜の神社。

濃い霧が立ち込め、木々の間から奇妙な光が揺らめいている。

その奥に、あの"白い何か"が立っていた。

「お前……誰なんだ?」

俺が問うと、それはゆっくりと顔を上げた。

いや——

"顔"というべきか分からない。

そこには、無数の目があった。

「我は、"霊子"。」

「お前は、我を読んだ。故に、ここへ導かれた。」

恐怖で足がすくんだ。

何かが、俺をこの場所へ引き込もうとしている。

「お前も"霊子"になれ。」

次の瞬間——

俺の両目から、黒い液体のようなものが流れ出した。

「……うわぁぁ!!」

そこで目が覚めた。

【本の消失】

心臓が激しく鼓動している。

額の汗を拭いながら、俺は机の上を見た。

そして、凍りついた。

カバンの中に入れたはずの「霊子降臨」が、机の上に置かれていた。

しかも——

表紙には、俺の名前が書かれていた。

「……何だよ、これ……!」

恐怖に駆られ、本を持って大学の図書館へと向かった。

だが、司書に見せると、彼女は困惑した顔でこう言った。

「この本、うちの蔵書にはありませんよ?」

「そんなはずはない! 俺がここで借りたんだ!」

「……申し訳ありません。でも、うちの記録には残っていません。」

信じられなかった。

【エピローグ】

その後、俺は「霊子降臨」を燃やそうとした。

だが、本は燃えなかった。

仕方なく、山奥の神社の裏に埋めた。

以来、俺はあの悪夢を見ることはなくなった。

だが、一つだけ気になることがある。

最近、ネットの掲示板で、こんなスレッドを見つけた。

《「霊子降臨」って本、知ってる?》

《読んだら悪夢を見るらしい》

そして、最後の書き込みに、俺は目を疑った。

《著者名は、俺の名前だった》

まさか——

俺はもう、"霊子"にされてしまったのか?

あなたももし、「霊子降臨」という本を見つけたら——

決して、読んではいけない。

あなたの名前が、次の著者名にならないために。



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