東北地方のある県に、「黒神岳(くろかみだけ)」という山がある。
標高は1200メートルほどで、ハイキングにも適した静かな山だ。
だが、地元の人間は決して近寄らない。
理由は単純――「あの山は、帰れなくなる」と言われているからだ。
目次
黒神岳の噂
黒神岳には、いくつかの奇妙な噂がある。
登山道に、「登るな」と掠れた字で書かれた古い木札がある。
夕方になると、山道が増える。
頂上まで行くと、帰り道がなくなる。
一度も振り向かずに下山しないと、連れて行かれる。
登山客の間では「単なる迷信だろう」と言われているが、黒神岳では行方不明者が異常に多い。
しかも、遭難者の遺体が発見されることはほとんどない。
「……帰れなくなる」という噂が、妙に現実味を帯びていた。
登山の開始
ある日、登山好きの友人・田中に誘われ、俺は黒神岳に向かった。
「こんなに綺麗な山なのに、なんで地元の人は登らないんだろうな?」
登山口に立ち、田中が笑いながら言った。
「噂が広まりすぎてるだけだろ。」
俺たちは軽い気持ちで登り始めた。
道は整備されていて歩きやすく、最初は快適な登山だった。
だが――
異変は、五合目を過ぎたあたりから起こり始めた。
増える登山道
「なあ、分かれ道なんてあったか?」
田中が足を止めた。
目の前には、左右に分かれる登山道があった。
「おかしいな……この山の登山道は一本しかないはずだが……。」
地図を確認するが、そんな分かれ道は載っていない。
「とりあえず右に行こう。」
軽い気持ちで進んだが、しばらく歩くと、また道が分かれていた。
しかも、来た道を振り返ると――
元の道がなくなっていた。
「……おかしい。」
嫌な汗が流れる。
まるで、山の形が変わっているようだった。
振り向いてはいけない
焦る気持ちを抑えながら、とにかく進むことにした。
「絶対に変だ……早く降りよう。」
そう話していると、ふと田中が後ろを振り返った。
「おい! 振り向くな!!」
そう叫ぶと、田中の顔が凍りついた。
「……なあ、後ろにいるの、誰だ?」
「は?」
俺は恐る恐る後ろを見た。
そこには――
知らない男が立っていた。
登山者の格好をしているが、顔が異様に白い。
「……さっきまで、いなかったよな?」
俺は声を震わせながら田中に聞いた。
だが――
田中がいない。
隣にいたはずの田中の姿が、忽然と消えていた。
黒神岳の掟
「連れて行かれる」
その言葉が脳裏をよぎった。
後ろの男が、ゆっくりと口を開いた。
「お前も来るか?」
その瞬間、俺は走った。
道が合っているかどうかも分からない。
とにかく、振り向かずに走り続けた。
気づけば、登山口に戻っていた。
膝をつき、荒い息を整える。
だが――
田中の姿は、どこにもなかった。
彼の名前を呼んでも、山は静まり返っているだけだった。
行方不明者の共通点
警察に捜索願を出したが、田中は見つからなかった。
そして後日、奇妙なことを聞いた。
黒神岳で行方不明になった登山者には共通点があるという。
「決して振り向いてはいけない」という忠告を破った者だけが消える。
田中は振り向いてしまった――
だから、彼はもう戻ってこないのかもしれない。
それ以来、俺は黒神岳に近づいていない。
だが、登山者のブログでこんな書き込みを見つけた。
「黒神岳の登山道で、一人で立っている登山者を見た。でも、彼には影がなかった。」
田中が、まだ山にいるような気がしてならない。
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