怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

霊山・黒神岳の禁足地 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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プロローグ

山を登るのが趣味の俺は、日本各地の名峰を踏破してきた。

そんな俺のもとに、登山仲間のSから一本の連絡が入った。

「お前、黒神岳(くろかみだけ)って知ってるか?」

黒神岳――聞いたことがない。

「いや、聞いたことないな。どこにあるんだ?」

Sの話によると、その山は地図には載っていない霊山 らしい。

山深い集落の裏手にあり、地元の人間は「決して入るな」と口を揃えて警告するという。

「……行ってみようぜ。」

好奇心に負け、俺はSと共に黒神岳へ向かうことになった。

だが、この選択を後悔することになるとは、まだ知らなかった。

第一章:黒神岳への道

黒神岳は、長野県と岐阜県の県境に位置すると言われる山だ。

俺たちは車を走らせ、山奥の小さな集落に到着した。

しかし、住民に黒神岳のことを聞いても、皆そっけなく答えるばかりだった。

「そんな山、知らん。」
「行くのはやめとけ。」

明らかに、何かを隠している。

仕方なく、俺たちはGPSを頼りに登山口を探し、ようやく獣道のような細い道 を見つけた。

「ここだな……。」

俺たちは山へと足を踏み入れた。

だが、その瞬間、背筋にゾワリとした寒気が走った。

ここは、入ってはいけない場所だ。

直感がそう告げていた。

第二章:異変の始まり

山道を進むにつれ、違和感は増していった。

静かすぎる。

鳥のさえずりも、風の音さえもしない。

足元に落ち葉が積もっているのに、それを踏んでも音がしない。

「なんか、やばくねぇか……?」

Sも不安そうな顔をしていたが、俺たちはそれでも進んだ。

しばらくすると、朽ち果てた鳥居が見えてきた。

「……神社があったのか?」

近づくと、鳥居の柱には古びた木札が打ちつけられていた。

「これより先、入るべからず」

俺たちは顔を見合わせた。

「どうする?」

「……行くしかねぇだろ。」

俺たちは鳥居をくぐった。

すると、その瞬間、背後から何かが走り抜ける気配 を感じた。

第三章:霊山の領域

鳥居を超えた先の空気は異様だった。

霧が立ち込め、足元が見えづらくなっている。

そして――

山道の脇に、無数の石碑が並んでいた。

「なんだこれ……?」

石碑にはびっしりと名前が刻まれていた。

しかし、その名前の中には明らかに新しいもの も混じっていた。

「佐藤〇〇」
「田中〇〇」
「鈴木〇〇」

そして――

俺とSのフルネームが、そこに刻まれていた。

「……は?」

一気に血の気が引いた。

「これ、おかしいだろ……!」

Sが叫んだ次の瞬間。

背後から、囁く声が聞こえた。

「――みつけた。」

第四章:逃げ場のない山

振り向くと、霧の中に黒い影 が立っていた。

それは人の形をしていたが、輪郭がぼやけ、顔がない。

影は、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

「やばい、逃げるぞ!!」

俺たちは一目散に山を駆け下りた。

だが、走っても走っても、景色が変わらない。

同じ場所をぐるぐると回っているような感覚に襲われる。

「出られねぇ……!」

パニックになりながらも、俺は必死に鳥居を探した。

そして、ようやく見覚えのある鳥居 にたどり着いた。

「出るぞ!!」

俺たちは鳥居をくぐった。

その瞬間――

世界が、一気に静寂に包まれた。

気づくと、俺たちは元いた山道に立っていた。

鳥居は、最初からなかったかのように消えていた。

結末:残る痕跡

俺たちは命からがら集落へ戻り、急いで車に乗り込んだ。

しかし、Sが震える声で言った。

「……お前、背中に何かついてるぞ。」

車のミラーを覗き込むと、俺の肩に――

黒い手形 が残っていた。それは皮膚にまで達していた。

翌日、念のため病院で診てもらったが、医者は首をかしげるばかりだった。

「……まるで、火傷の痕みたいですね。」

あの日以来、俺は登山をやめた。

だが、今でもふとした時に思い出す。

あの石碑に刻まれていた自分の名前。

あれは、「まだ来ていない者」の名前だったのか、それとも――。



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