目次
知らないパスワードのメモ
会社員の俺は、普段からパスワード管理には気をつけていた。
セキュリティ意識が高いわけではなく、単に忘れっぽいからだ。
スマホのメモアプリには、仕事やプライベートのログイン情報がずらりと並んでいる。
銀行、通販サイト、動画配信サービス、社内システム――
どれも間違いなく自分が登録したものばかりだ。
だが、ある日、不思議なことに気がついた。
メモの中に「見覚えのないパスワード」が書かれていたのだ。
**「login: *****」
「password: 9h1Xy27#ks」
書いた覚えがない。
そもそも、どのサイトやサービスのパスワードなのかも分からない。
気味が悪かったが、仕事の疲れでうっかりメモしてしまったのかもしれない。
そう思い、気にしないことにした。
何のサイトかわからないログイン画面
数日後、何気なくスマホをいじっていると、突然見たことのない通知が届いた。
「ログインが必要です」
不審な通知だったが、なぜか無視できない気がして開いてしまった。
画面には、シンプルなログインフォームが表示されている。
「ID または メールアドレス」
「パスワード」
一瞬、悪質なフィッシングサイトかと思った。
しかし、これは……あの見知らぬパスワードのメモと関係があるのか？
試しに、メモにあったパスワードを入力してみた。
――ログイン成功。
次の瞬間、スマホの画面に無数の文字列が表示された。
それは、「俺の過去のパスワード一覧」だった。
知らないはずのパスワードが並ぶ
銀行、メール、SNS、仕事の管理ツール……
ありとあらゆるサービスの過去のパスワードが羅列されていた。
だが、一番下のリストに「未来のパスワード」が表示されていることに気づいた。
それは、俺がまだ設定していないはずのパスワードだった。
ぞっとした。
まるで、このサイトは俺の行動を先回りして知っているようだ。
試しに、その「未来のパスワード」をメモし、翌日会社で社内システムのパスワード変更時に使ってみた。
……なぜか、すでに登録されていた。
俺が昨日まで知らなかったパスワードが、すでに設定されていたのだ。
「最終パスワード」の警告
怖くなった俺は、そのサイトに再びログインしようとした。
しかし、今度は違う画面が表示されていた。
「次のパスワードは、あなたが最後に使うものです」
その下に表示されていたのは、見たこともない長い文字列だった。
何の意味があるのか？
「最後のパスワード」――つまり、俺はこれを使ったら……？
消される？ 乗っ取られる？ それとも……？
もうこのサイトには関わらない方がいい。
そう思い、すぐにスマホを初期化した。
それでも残る「ログイン要求」
スマホを初期化して数日が経った。
安心したのも束の間、ある日会社のPCで仕事をしていると、画面の端に小さなポップアップが現れた。
「ログインが必要です」
振り向くと、スマホの通知にも同じメッセージが表示されていた。
慌ててスマホを手に取ると、そこにはあの「最終パスワード」が書かれていた。
それを入力したらどうなるのか――
俺は知ることが怖くて、ただ画面を見つめることしかできなかった。
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