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時空の切れ目──忘れられた踏切 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章──道に迷った帰り道

会社員の「中村拓哉」は、久しぶりの出張帰りに都心の駅で乗り換えを間違えた。

終電の一本前、慣れない路線に乗り込み、人気のない駅で降りる。

スマホのナビを頼りに歩き始めたが、道はどんどん暗くなり、いつの間にか線路沿いの細道に入っていた。

ふと目の前に現れたのは、古びた踏切だった。

錆びた遮断機が下りたまま、カンカンという音もなく、静かに佇んでいる。

「こんな踏切、あったか……?」

辺りを見渡しても、誰もいない。

拓哉は仕方なく踏切を回り込もうとしたが、なぜかどうしても足が踏切の方へ向かってしまう。

まるで、何かに誘われるように──。

第一章──渡れない踏切

仕方なく遮断機の手前で立ち止まり、しばらく待つことにした。

スマホを見ると、電波が途切れていた。

時計は23時42分。

待っても待っても、遮断機は上がらない。

踏切の向こうには街灯が見えるのに、渡ろうとすると妙に体が重くなり、一歩も進めない。

「おかしいな……」

その時、背後からかすかな足音がした。

振り返ると、いつの間にか年配の男が立っていた。

「この踏切は、もう渡れませんよ」

「え?」

男はぼそりと呟いた。

「23時42分のまま、止まってしまったんです」

拓哉が驚いてスマホを見ると、時計は確かにさっきから一秒も進んでいなかった。

第二章──繰り返される時間

男の話によると、この踏切は何十年も前に廃止されたものだという。

しかし、なぜか夜になると現れ、通った人間を時間の流れから切り離してしまう。

「この踏切に迷い込んだ者は、渡ることも戻ることもできなくなるんです」

「そんな馬鹿な……」

拓哉は懐中時計を持った男の手元に目をやった。

時計は、拓哉のスマホと同じく23時42分を指したまま止まっている。

「じゃあ、あなたは……?」

男は小さく微笑んだ。

「私もここに迷い込んだ一人ですよ」

「いつから?」

男は答えなかった。

ただ、懐中時計を握る手が小刻みに震えていた。

第三章──出口の条件

「ここから出る方法はないんですか?」

拓哉がそう尋ねると、男はしばらく黙った後、こう答えた。

「一つだけ方法があります」

「なんですか?」

「誰かが代わりに迷い込むまで、あなたはここにいなければならない」

男は静かに踏切の向こうを指さした。

そこには、街灯の下に小さな影が立っていた。

──自分とそっくりな姿の男が、じっとこちらを見つめている。

「渡りたければ、あちら側の自分に場所を譲るしかありません」

拓哉の背中に冷たい汗が流れる。

もう一度振り向いた時には、年配の男は消えていた。

終章──戻れたのはどちらか

勇気を振り絞り、拓哉は遮断機をくぐった。

目の前の自分は、静かに一歩下がり、何も言わずにその場に立ち尽くしていた。

渡り切ると、スマホの画面が急に明るくなり、時計が23時43分に進んでいた。

何事もなかったかのように、踏切の音が鳴り始める。

振り返ると、もう踏切はなかった。

しかし、その日から拓哉は、時々鏡の中に自分ではない「誰か」が映っているのを感じるようになった。

あの踏切で残されたのは──どちらの自分だったのだろうか。



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