目次
序章：同僚の異変
会社員の 三浦和也（みうら・かずや） は、最近気になっていることがあった。
隣の部署の 田島（たじま） という男の様子がおかしいのだ。
—— やけに他人の視線を気にしている。
—— 誰もいないのに、時折、背後を振り返る。
—— 会話の最中でも、突然黙り込み、宙を見つめる。
そして、極めつけは 「田島の机の引き出し」 だった。
たまたま昼休みに彼のデスクの前を通りかかった時、田島が 何かを机にしまう瞬間 を見てしまった。
ほんの一瞬だったが——
真っ赤に染まった何かが見えた。
「……血？」
まさか、犯罪……？
その日から、三浦の頭の中には 田島の不審な行動 ばかりがこびりつくようになった。
第一章：疑念の深まり
「お前、最近田島のことばっか気にしてるな。」
ある日、同期の 木村（きむら） にそう指摘された。
「いや……なんか、気になるんだよ。」
「気にしすぎだろ。アイツは元々ああいう性格だろ？」
確かに、田島は 少し神経質なところがある。
だが、それだけでは説明がつかない。
「お前、邪推しすぎじゃないか？」
木村は呆れたように言ったが、三浦の疑念は消えなかった。
そして、その日の夜——
三浦は、ある行動に出た。
第二章：田島の“秘密”
深夜2時。
三浦は会社に忍び込み、田島の机を調べることにした。
誰もいないオフィスの中、スマホのライトを頼りに、田島のデスクへ向かう。
「……ここか。」
引き出しをそっと開けると、そこには 白い布に包まれた何か があった。
恐る恐る布をめくる——
「……っ！！」
そこにあったのは、 血まみれの包丁 だった。
「やっぱり……！」
確信した瞬間、背後から コツ……コツ…… と足音が聞こえた。
「何をしているんです？」
振り向くと、田島が立っていた。
第三章：邪推の代償
「勝手に人のデスクを漁るなんて、良くないですよ……三浦さん。」
田島の声は、妙に落ち着いていた。
「こ、これは……！」
「邪推って、怖いですよね。」
田島はゆっくりと歩み寄る。
「どうしてそんなに僕を疑うんですか？」
「……だって、お前、これ……！」
震える指で、血まみれの包丁を指さす。
田島はそれを見ると、フッと笑った。
「それ、何の血だと思います？」
「……え？」
田島はポケットから 何かを取り出した。
それは—— 小さな赤いインクの瓶だった。
「これ、絵の具ですよ。」
「……っ！？」
「最近、ストレス発散のために 絵を描いてる んです。ちょっとホラー風のね。」
「で、でも……！」
「あなた、僕のことを“殺人犯”だとでも思ったんですか？」
田島はにこりと微笑んだ。
—— その瞬間、三浦の脳内に ある違和感 がよぎる。
—— いつから俺は、田島が“何かやっている”と決めつけていた？
—— 本当に“怪しい”のは、田島だったのか？
「邪推しすぎると、現実が歪みますよ。」
田島の言葉が、妙に耳に残った。
「僕を疑うなんて、可哀想ですね。」
「え……？」
「……三浦さんが、本当のことを“思い出せない”なんて。」
田島がそっとスマホを差し出す。
そこには 監視カメラの映像 が映っていた。
——深夜のオフィスで、机の引き出しに血まみれの包丁を入れる“自分の姿”が。
「なんで……俺が……？」
「ほら、邪推してたんじゃないですか？」
田島は笑いながら言った。
「“誰か”が怪しいってね。」
そして、ふと三浦の脳裏に 断片的な記憶 が蘇った。
血まみれの包丁。
倒れた誰かの影。
—— 「まさか……」
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