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廃井戸から来るもの──怨霊退散の夜 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章──村の廃井戸

大学生の中村悠斗は、夏休みを利用して祖父の住む田舎の村を訪れた。

古びた家々が並ぶその村には、一つの言い伝えがあった。

「夜に廃井戸の近くへ行くな」

悠斗は迷信だと思っていたが、祖父は真剣な顔で言った。

「昔、あの井戸に子どもが落ちて亡くなったんだよ……それからというもの、井戸の近くでは子どものようなものが現れるようになった」

そして最後に、こう付け加えた。

「……もしそれを見ても、絶対に振り向くな。逃げろ」

悠斗はその時、何気なく「はい」と答えたが、それが恐怖の始まりだった。

第一章──井戸の周りの異変

村を散策していると、森の奥にぽつんと古い井戸があった。

木製の蓋がされ、周囲には「怨霊退散」と書かれたお札が無数に貼られている。

「……やりすぎだろ」

そんなことを思いながら、悠斗は井戸の近くで写真を撮った。

しかし、その瞬間──

カラン……

何かが井戸の中で動いた。

まるで、誰かが井戸の底から這い上がってくるような音。

「……?」

悠斗が耳を澄ました瞬間、背後から小さな足音が聞こえた。

「タタタ……」

子どもが走るような音。

「え?」

恐る恐る振り向くと、そこには──

小さな子どもの影が立っていた。

第二章──追いかけてくるもの

その子は、ボロボロの着物を着ていた。

しかし、違和感があった。

顔が見えない。

影のように黒く、ただこちらをじっと見つめている。

「……誰だ?」

悠斗がそう呟いた瞬間、子どものようなものは猛然と走り出した。

「タタタタタ……」

明らかに異常な速度で、悠斗に向かってくる。

「ヤバい!!」

悠斗は必死で逃げた。

しかし、どれだけ走っても、足音はどんどん近づいてくる。

そして、すぐ耳元で──

「井戸に帰ろう?」

その声が響いた瞬間、悠斗の体が強く引っ張られた。

足がもつれ、地面に倒れ込む。

「くそっ……!!」

振り返るな──!!

祖父の言葉が頭をよぎったが、恐怖に耐えきれず、悠斗は振り向いてしまった。

そこにいたのは──

無数の子どもの顔が張り付いた異形の塊だった。

第三章──怨霊退散の儀式

悠斗は叫びながら這いずり、必死に村へ戻った。

家に駆け込むと、祖父が驚いた顔をした。

「……お前、見たのか!?」

「助けてくれ……!!」

その瞬間、家の外で足音がした。

「タタタタ……」

子どものようなものが、もうそこまで来ている。

祖父はすぐに押入れから古びた巻物を取り出し、何かを唱え始めた。

「……怨霊退散!!」

その言葉とともに、祖父は悠斗の額に強く「お札」を貼った。

次の瞬間、

バチンッ!!

という音とともに、家全体が揺れた。

そして、あの足音が、遠ざかっていった。

終章──消えた写真

翌朝、悠斗は夢だったのかとスマホを確認した。

しかし、昨日撮った井戸の写真はすべて真っ黒になっていた。

「……もう、近づくな」

祖父はそれだけ言い、井戸へ新しい「怨霊退散」のお札を貼りに行った。

その日から、悠斗は二度と村の井戸には近づかなくなった。

しかし、帰りのバスの中で、スマホを見て凍りついた。

カメラロールの一番最後に、こんな写真が残っていたのだ。

──“井戸の底から覗く、無数の子どもの目”



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