目次
狐の窓との出会い
大学の民俗学ゼミで、俺は「狐にまつわる言い伝え」について研究していた。
調べるうちに、「狐の窓」という言葉を知った。
人差し指と親指を輪にして片目で覗くと、普通では見えないものが見えることがある。
特に、山や神社、古い道などで試すと異界が垣間見える という。
「面白そうだな……」
興味を持った俺は、実際に試してみることにした。
旧街道での実験
ゼミの資料によると、俺の住む町には、昔の狐憑きの伝説 が残る旧街道があるらしい。
ある夜、俺はその道に向かった。
月明かりの下、人通りのない旧道を歩き、ふと立ち止まる。
そして、右手で輪を作り、左目を閉じて右目だけで覗いた。
……最初は、何も変わらないように思えた。
しかし、数秒後——
「……ん?」
道の先に、古びた鳥居 が見えた。
「こんなの、さっきまであったか?」
鳥居の先には、赤い提灯が灯る小さな社のようなものがぼんやりと浮かんでいた。
だが、輪を外すと、それは消えた。
もう一度覗くと、やはり鳥居が見える。
「……これは、本当に見えてはいけないものなのかもしれない。」
そう思った瞬間——
カサ……カサ……
後ろで何かが動く音がした。
「覗きましたね?」
背筋がぞわりとした。
振り向こうとしたが、なぜか身体が動かない。
その時——
「覗きましたね?」
耳元で、女の声がした。
ゾクリとするほど冷たい声。
「……誰だ?」
恐る恐る振り向くと、そこには——
狐面をかぶった女が立っていた。
真っ赤な着物を着て、じっとこちらを見ている。
「……お前、誰だ?」
そう問うと、女はゆっくりと首をかしげた。
そして、小さく笑った。
「ようこそ、こちら側へ。」
その瞬間——
視界が歪んだ。
もう一つの世界
気づくと、俺は見覚えのない場所に立っていた。
……いや、確かにさっきの旧街道のはずなのに、どこかが違う。
空が赤黒く染まり、周囲の建物は歪んで見える。
耳を澄ますと、遠くから囁き声が聞こえる。
「覗いた。覗いた。覗いた者は帰れない。」
「ここは、狐の道。戻る道は閉じられた。」
やばい。ここは、普通の世界じゃない。
焦った俺は、もう一度 狐の窓 を作り、元の道を探した。
……すると、遠くに、ぼんやりとした影が見えた。
それは、さっき見えた鳥居 だった。
「あそこに戻れば……!」
俺は全力で駆け出した。
戻るための条件
鳥居に向かって走る俺の背後で、ざわざわと何かが蠢く音がする。
振り向かずに走る。
もう少しで鳥居に手が届く——そう思った瞬間、またあの女の声がした。
「あなたは、代わりを連れてこられますか?」
鳥居の前で、狐面の女が立ちはだかる。
「……どういう意味だ?」
「ここに来た者は、一人では帰れません。代わりを連れてくれば、戻してあげます。」
俺は思わず息を呑んだ。
誰かをここに連れてこい、と?
俺の背後では、赤黒い影が蠢いている。
時間がない。
どうする?
「……じゃあ、お前が代わりになれ。」
俺は咄嗟に、女の狐面を掴んだ。
その瞬間——
世界が弾けるように消えた。
元の世界?
気づくと、俺は旧街道に立っていた。
……あの赤黒い空も、狐面の女も消えている。
「……戻れた?」
スマホを見ると、まだ夜の23時。
狐の窓を作って、もう一度覗く。
鳥居も、社も、何もなかった。
全身に冷や汗をかきながら、俺はその場を離れた。
そして、また
それから数日後——
大学で、偶然 民俗学ゼミの後輩 に会った。
「先輩、最近面白い話を聞いたんです。」
「……何?」
「狐の窓って知ってますか?」
俺は背筋が凍った。
「それで、昨日試してみたんですけど……」
後輩は、少し不思議そうに言った。
「夜中に旧街道で覗いたら、鳥居が見えたんですよ。」
「……!」
「でも、その鳥居の前に、狐面をかぶった人が立ってたんです。」
後輩は笑いながら言った。
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