目次
行方不明になった友だち
中学3年の夏、俺の親友 タカシ が突然行方不明になった。
前日まで普通に学校に来ていたのに、翌朝から姿を消した。
警察の捜索も虚しく、タカシは結局見つからなかった。
でも、俺は気づいていた。
タカシは、あの日から様子がおかしかったことに。
それは、夏休みに入る直前のことだった。
タカシの様子がおかしい
夏休み前のある日、タカシが俺にこう言った。
「なあ……最近、夜に変な音が聞こえるんだよ。」
「変な音？」
「うん……窓の外から、トントン……って。」
「ただの風とかだろ？」
俺は笑って流したが、タカシは真顔だった。
「違うんだよ。……俺の名前を呼んでるんだ。」
「は？」
「『タカシ……タカシ……』って。」
俺は冗談だと思った。
でも、タカシは本気だった。
「……昨日なんか、窓の外に子どもが立ってたんだ。」
「子ども？」
「顔、見えなかった。でも……そいつ、ずっと怨霊退散って呟いてた。」
「……おい、マジで言ってんのか？」
タカシは頷いた。
それが、タカシと話した最後だった。
タカシの日記
タカシが行方不明になって数日後、タカシの母親から連絡があった。
「……これ、タカシが最後まで書いてた日記なの。」
手渡されたのは、タカシの日記だった。
「手がかりになるかもしれないから……読んでみて。」
俺は躊躇いながらも、日記を開いた。
最初は普通の日常が書かれていたが、あるページから異様な内容になっていた。
日記に書かれていたこと
《7月14日》
夜中に窓を叩く音がする。
「タカシ……タカシ……」って誰かが呼んでいる。
怖いから、怨霊退散って布団の中で唱えた。
《7月16日》
音は毎晩続いてる。
今日、窓の外に子どもみたいなものが立ってた。
ずっと「怨霊退散、怨霊退散」って呟いてた。
でも、それは……俺に対して言ってる気がした。
《7月18日》
布団の中で怨霊退散を何度も唱えた。
でも、夜中に気づいた。
子どもは窓の外じゃなくて、
布団の中に入ってきていた。
「……っ！！」
鳥肌が立った。
ページをめくる手が震える。
別の誰かが書いた文
次のページから、明らかに筆跡が変わっていた。
幼い子どものような、歪んだ文字。
《7月20日》
タカシはもうすぐこっちに来ます。
怨霊退散なんて、意味ないです。
《7月21日》
タカシくん、いっしょにいこう。
怨霊退散しても、もう遅いです。
「……何これ……」
背筋が凍る。
そのページの隅には、黒い手形が押されていた。
次のページをめくると、最後の一文が書かれていた。
《7月22日》
タカシはこっちに来ました。
次は、君の番です。
その瞬間——
俺の耳元で、子どもの声がした。
「……怨霊退散、怨霊退散……」
「……っ！！」
慌てて振り向いた。
誰もいない。
でも、窓の外に子どもらしき影が見えた。
「怨霊退散、怨霊退散……」
まるで、俺を祓おうとしているように。
「……違う、待て。なんで俺を……」
気づいてしまった。
あれは、タカシを連れていったものではない。
タカシ自身だ。
あいつは、怨霊に取り憑かれたまま……
今度は俺を連れていこうとしている。
そして、また
それから数日間、俺は毎晩怨霊退散と唱え続けた。
だが、あの子どもの声は消えない。
「……怨霊退散、怨霊退散……」
ふと気づく。
もしかして俺はもう取り憑かれているんじゃないか？
次の日記には、きっとこう書かれる。
《8月5日》
次は、カズキくんが来ました。
怨霊退散しても、もう遅いです。
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