目次
「事故物件ですが、よろしいですか?」
「こちら、心理的瑕疵(しんりてきかし)のある物件となりますが……ご理解いただけますか?」
不動産屋の担当者が、そう申し訳なさそうに言った。
「ええ、大丈夫です。」
俺は大学進学のために上京し、安い物件を探していた。
家賃2万5千円。ワンルーム。
駅から徒歩10分でこの値段は異常に安い。
理由は簡単だった。
「半年前、この部屋で男性が失踪しています。」
「失踪……ですか?」
「ええ。夜中にふらっと外に出て、二度と戻らなかったそうです。」
「……怖いですね。」
「ただ、ご遺体は見つかっておりませんので、事故物件というよりは心理的瑕疵物件という扱いになります。」
普通なら気味悪がるだろう。
でも俺は、安さに釣られて契約を決めた。
この時、本当に気をつけるべきだったのかもしれない。
部屋の違和感
入居初日から、微妙な違和感はあった。
夜になると、壁の隅から「カサ……カサ……」という音がする。
ネズミか何かだろうと気にしなかった。
それよりも、俺は玄関のドアに貼られている紙が気になった。
『告知事項:入居者は必ず夜中に外に出ないでください。』
不動産屋からも、「夜中に外出は控えたほうがいいです」と言われていた。
まあ、治安が悪いからだろうと思っていた。
だが、その注意の意味を俺はすぐに知ることになる。
夜中に聞こえる音
入居して3日目。
深夜2時頃、玄関のチャイムが鳴った。
「……誰だよ、こんな時間に。」
モニターを確認するが、誰もいない。
イタズラかと思い無視した。
しかし——
コンコン……
今度はドアをノックする音が聞こえた。
恐る恐るドアスコープを覗いた。
そこには、誰もいない。
だが……
暗闇の中、何かが投げられたような音がした。
「カチン……カチン……」
まるで石礫(れき)を投げるような音だった。
俺は怖くなり、布団をかぶって眠った。
翌朝、玄関の前を見ると、小さな石がいくつも転がっていた。
「……暗夜の礫(あんやのれき)」
この言葉が、頭をよぎった。
「夜中、外に出たら、礫(つぶて)を投げられる」
昔からある不吉な言い伝えだ。
まさか、と思いながらも、気のせいだと思い込むことにした。
「告知事項」が増える
それから数日後、ドアに貼られた告知事項に異変が起きた。
最初は
『告知事項:夜中の外出は控えてください。』
だけだったのに——
翌日から、新しい紙が増えていた。
『告知事項:外から声がしても、決して開けてはいけません。』
「……は?」
その日の夜、またチャイムが鳴った。
深夜2時13分。
モニターを見ると、やはり誰もいない。
「カチン……カチン……」
玄関の外で礫が投げられる音がする。
怖くなり、布団をかぶって朝まで耐えた。
翌朝、玄関を開けると、新しい紙が貼られていた。
『告知事項:今夜は迎えが来ます。準備をしてください。』
迎えが来る夜
その夜、玄関の前から声が聞こえた。
「すみません……すみません……」
低く、しわがれた声だった。
俺は恐怖で体が動かせなかった。
だが、モニターを見ると真っ黒な人影が立っていた。
そいつは何かをずるずると引きずっている。
「おい……嘘だろ……」
次の瞬間——
「ドンッ!!ドンッ!!」
強烈なノック音が響いた。
俺は耳を塞ぎ、怯えるしかなかった。
すると、玄関の郵便受けから新しい紙が滑り込んできた。
震える手で拾い上げると、こう書かれていた。
『告知事項:次の方に引き継ぎます。』
心理的瑕疵の本当の意味
翌朝。
恐る恐る玄関を開けると、外には何もなかった。
だが、俺の足元には新しい告知事項が落ちていた。
『告知事項:この部屋は、次の者へ引き継ぎました。』
「……引き継ぎ?」
そう思った瞬間、スマホに通知が届いた。
差出人は「不動産管理会社」。
開くと、本文には——
『告知事項:次の住人の到着をお待ちください。』
「……え?」
そして、次の日からまた玄関の前で礫の音が鳴り始めた。
今度は俺が、次の誰かを迎え入れる番になってしまったのだ。
これが、心理的瑕疵の本当の意味だった。
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