夜道でのすれ違い
あれは、大学の帰り道だった。
バイト終わりの夜11時過ぎ。
駅から自宅までは徒歩15分ほどの距離がある。
人通りは少なく、薄暗い住宅街をひとり歩いていた。
その日も特に何事もなく、早く帰ってシャワーを浴びようと思っていた。
……だが、途中で違和感に気づいた。
前方50メートルほど先に、誰かが立っている。
暗くてよく見えないが、白っぽい服を着た人だった。
髪が長い女性のようにも見えた。
「こんな時間に……?」
住宅街の中では珍しく、こんな遅い時間に人とすれ違うことはほとんどない。
俺は軽く会釈しながら通り過ぎようとした。
——その瞬間、妙な違和感を覚えた。
「あれ……顔、見えなくね?」
すれ違う距離まで近づいたのに、その人の顔が全く見えない。
髪の毛が不自然に顔を覆っているわけでもなく——
まるで、そこだけ空洞になっているような感覚だった。
すれ違いざま、俺は思わずチラッと振り返った。
……誰もいなかった。
「え?」
確かにすれ違った。
肩が触れるほど近くを通ったはずだ。
なのに、背後には誰の姿もなかった。
ゾッとする事実
俺は足早に帰宅し、すぐにシャワーを浴びた。
「……見間違いだろう」
そう自分に言い聞かせたが、どうしてもすれ違った時の感覚が頭から離れなかった。
あの顔がなかった人の存在感——。
翌日、バイト先で何気なくその話を同僚にした。
「昨日さ、帰り道ですげぇ変な人とすれ違ったんだよ」
「へぇ、どんな?」
「いや、なんていうか……顔が見えなかったんだよ」
すると、同僚がピタリと動きを止めた。
「……顔が、見えなかった?」
「うん、すれ違ったのに、振り返ったらもういなかった」
同僚は顔色を変え、こう言った。
「お前……それ、出たんじゃね?」
「は?」
「この辺、昔から有名なんだよ。
夜道ですれ違う人間の顔が見えなかったら、それ幽霊だから」
「……やめろって、マジで」
「いや、本当なんだって。しかもな……」
同僚は声を潜めて続けた。
「すれ違っただけならいいんだけど……もし振り返っちゃった場合——」
「……場合?」
「ついてくるって話、よくあるんだよな」
心臓が冷たくなった。
「え、待て待て。俺、普通に振り返っちゃったぞ?」
「……マジかよ」
その瞬間、背中に鳥肌が立った。
「……それさ、今も後ろにいるんじゃね?」
冗談半分の同僚の言葉だったが、俺はもう二度と夜道ですれ違った人を振り返らなくなった。
——なぜなら、その日以降、
夜になると決まって背後から誰かの足音がついてくるからだ。
そして、まだ俺は確認していない。
後ろにいるのが、あの「顔のない人」なのかどうかを。
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