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幽霊とすれ違う瞬間──気づいた時には遅い 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章──深夜の帰り道

会社員の坂本亮介は、その日残業で帰りが遅くなった。

時計を見ると、すでに23時過ぎ。

「終電、ギリギリか……」

駅までの近道を通るため、普段は通らない人気のない裏道を歩くことにした。

狭い路地は暗く、夜風が妙に冷たい。

「……早く帰ろう」

そう思いながら足早に進んでいると、前方から人影が見えた。

第一章──すれ違う誰か

その人影は、若い女性のようだった。

髪は肩ほどまでの長さで、うつむき加減にゆっくりと歩いている。

「こんな時間に?」

この道は普段からほとんど人が通らない。

ましてや、深夜のこの時間に女性一人で歩いているのは妙だった。

「……まぁ、他人のことだしな」

亮介は気にせず、そのまますれ違おうとした。

──しかし、すれ違う瞬間、異様な違和感を覚えた。

何かがおかしい。

だが、その時は「怖い」とは思わなかった。

むしろ「変な人とすれ違ったな」程度の感覚だった。

すれ違った瞬間、かすれた声が聞こえた気がした。

「……あの、すみません……」

「え?」

思わず振り返ろうとした。

──しかし、振り返ってはいけない気がした。

「……いや、やめとこ」

亮介はそのまま早足で駅へ向かった。

第二章──違和感の正体

駅に着き、ホームで電車を待ちながら亮介は先ほどの出来事を思い返していた。

「……あれ?」

なんとなく違和感を感じていたことを思い出す。

すれ違ったときの感触。

──寒気。

──すれ違う時の「音のなさ」。

普通、人とすれ違えば、衣擦れの音や足音が聞こえるはずだ。

だが、彼女からは一切の音がしなかった。

さらに……

「……あれ、顔って見たっけ?」

すれ違う瞬間、確かに女性の横顔を見たはずだった。

だが、今思い返しても顔の記憶が一切ない。

「……いや、見たよな……?」

思い返せば思い返すほど、彼女の顔だけが真っ白に抜け落ちていることに気づく。

「……何だよ、それ」

嫌な汗が背中を伝う。

まさか……とは思いつつ、亮介はすれ違った路地をスマホの地図で確認した。

その道にはある噂があった。

「深夜に女性とすれ違っても、絶対に振り返ってはいけない」

「……マジかよ」

気味が悪くなり、亮介は電車が来るまでの時間を必死にスマホで調べ続けた。

そのうち、ある書き込みを見つけた。

「すれ違っただけなら、まだ大丈夫です。
でも、すれ違ったあとに話しかけられて、振り返った人は──」

文章はそこで途切れていた。

「……振り返ってたら、どうなってたんだ?」

背筋が凍る感覚を覚えながら、電車に乗り込んだ。

第三章──気づいてはいけなかったこと

翌日。

会社に向かうため、また同じ駅へ向かう。

「……昨日のは気のせいだ」

そう自分に言い聞かせながら、電車を待っていると、ホームの反対側に目が留まった。

昨日すれ違った女性にそっくりの後ろ姿があった。

「……まさかな」

だが、違うはずだ。

あれはただの通行人。

そう思い込もうとした瞬間、女性がゆっくりと顔をこちらに向けた。

「……ッ!!」

目が合った瞬間、亮介の脳内に昨日の声が響いた。

「……すみません……」

昨日、すれ違った時に聞こえたあの声。

「……違う……昨日は振り返ってないはずだ……」

亮介は震える足で逃げるように電車へ乗り込んだ。

しかし、ホームに残った女性は、

「次は、ちゃんと振り返ってね」

そう言いたげに、不自然に笑っていた。



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