目次
終電間際の帰り道
その日、俺は仕事が遅くなり、終電間際の電車で帰宅した。
最寄り駅に着いたのは深夜0時半を回った頃。
駅前は静まり返り、ほとんど人はいない。
「……疲れたなぁ。」
早く帰って寝ようと、薄暗い住宅街の道を歩き始めた。
この道は普段から人通りが少なく、深夜となればほぼ誰にも会わない。
住宅の隙間から吹く夜風が妙に冷たかった。
「早く帰ろ……」
そう思いながら、足早に歩き続けた。
誰かが向こうから来る
3分ほど歩いたところで、前方から誰かが歩いてくるのが見えた。
街灯の薄明かりの中、長い髪の女性だった。
白いワンピースのような服を着ていて、髪はうつむいた顔を隠している。
(こんな時間に……女性?)
こんな深夜に、住宅街の一本道を女性一人で歩いているのは少し不自然に思えた。
「まぁ……タクシーとか降りたばっかかもな。」
気にしないようにしよう。
でも、なぜか俺は胸騒ぎがした。
だんだんと距離が近づいてくる。
足音はしない。
なのに、確実にこちらへ向かってくる。
(……早くすれ違おう。)
目を合わせないように、俺は少し下を向いた。
すれ違う瞬間
女性と俺の距離が1メートルほどになった。
一応、軽く会釈をした。
女性はうつむいたまま、何も返さずゆっくりと歩いてくる。
すれ違いざま、俺は無意識に横目でチラッと顔を見た。
「……っ!」
顔がなかった。
そこには、真っ黒な穴だけが空いていた。
目も鼻も口もなく、ただ黒い闇だけがぽっかりと開いている。
俺は声も出せず、そのまま足早に通り過ぎた。
心臓がバクバクする。
「見間違いだ……見間違いだ……」
そう必死に自分に言い聞かせながら、振り向かずに早歩きで家へ向かった。
しかし——
背後から足音は一切聞こえなかった。
普通ならすれ違った後も、後ろから足音が聞こえるはずなのに。
でも、何も音がしない。
振り向きたい衝動に駆られたが、怖くてできなかった。
「帰れ、帰れ、帰れ……」
ただそれだけを頭の中で繰り返しながら、俺は家まで走った。
家に着いてから
家に着くと、すぐに鍵を閉めた。
「はぁ……はぁ……」
汗が止まらない。
さっきの顔のない女は何だったのか。
幻覚?
疲れのせい?
何度も自分にそう言い聞かせた。
でも、どうしてもあの真っ黒な穴が脳裏に焼き付いて離れない。
それでも何も起きなかったことに安堵し、俺はシャワーを浴びて寝ることにした。
何も起きなかった。
ただ、すれ違っただけ。
——それだけのはずだった。
翌日の違和感
翌朝。
仕事に向かおうと玄関を開けた瞬間、妙な違和感を感じた。
「……?」
足元を見ると、白い布の切れ端が落ちていた。
(……なんだこれ。)
昨日すれ違った白いワンピースの布に似ていた。
まさかな、と思いつつ、通勤のため家を出た。
あの住宅街の道を通るのが怖かったが、別の道はない。
恐る恐る昨日すれ違った場所を通ると——
道の脇にある防犯カメラに目が留まった。
「あれ……防犯カメラ、あるじゃん。」
(昨日のこと、録画されてるかもしれない……)
俺は何を思ったのか、近くの交番に立ち寄った。
「すみません、昨夜ここを通ったんですけど、なんか不審な人がいまして。」
警官が防犯カメラを確認してくれた。
「あー、23時30分頃のやつね……」
映像が流れ始める。
そこには俺が歩いている姿が映っていた。
「あ、ここです。この時すれ違ったんです。」
俺は画面を指差した。
だが——
「……え?」
映像の中に俺しか映っていなかった。
すれ違ったはずの白いワンピースの女はどこにもいない。
警官は怪訝そうに言った。
「誰とすれ違ったって?」
「い、いや……白いワンピースの女と……」
「いや、あんたしか映ってないよ。」
足早に逃げる俺の姿だけが、画面には映っていた。
昨日、俺は確かにすれ違ったはずなのに。
「……見間違い、ですよね。」
震える声でそう言うと、警官はゆっくり首を横に振った。
「いや……」
「たまにあるんですよ、この道で。“誰かとすれ違った”って言う人。」
「でも、カメラには何も映らないんです。」
「だから、あんたが見たのもたぶんそれでしょうね。」
俺は声が出なかった。
昨夜すれ違ったものは、やっぱり……
それ以来
俺は絶対にあの道を通らなくなった。
……でも、たまに思い出す。
すれ違った瞬間、確かに顔を見てしまったことを。
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