怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

【群霊の森】決して入ってはいけない場所 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章:地図にない森

「おい、本当にこっちで合ってるのか?」

大学生の 長谷川涼(はせがわ・りょう) は、スマホの地図を確認しながら隣の 村瀬拓海(むらせ・たくみ) に尋ねた。

「合ってるはずだよ。でも、地図には載ってないな……。」

二人は、山奥にある「群霊の森」と呼ばれる心霊スポットを訪れていた。

ネットの掲示板では、こんな噂がある。

「あの森に入ると、大勢の幽霊に囲まれる」
「出る時には、人数が増えている」

「でも、そんなに怖いなら、なんで誰もちゃんと調べてないんだろうな?」

涼がそう言うと、拓海は少し神妙な顔をした。

「……調べた人はいるらしいよ。でも、帰ってきた人はみんな、何かが違うんだって。」

「何か?」

「例えば、一緒に行ったはずの友達の記憶が曖昧になったり、撮った写真に“知らない人”が写ってたり……。」

「……嘘だろ?」

「まあ、行けばわかるさ。」

冗談めかしながらも、二人は森の奥へと足を踏み入れた。

第一章:森の異変

森の中は、異様なほど静かだった。

虫の声も、鳥のさえずりもない。

「……なんか、気味悪いな。」

「なあ、写真撮っとこうぜ。」

拓海がスマホを取り出し、森の入り口を撮影する。

しかし、画面を見ると——

木々の間に、無数の人影が映っていた。

「……おい、これ。」

「やめろよ……誰もいないはずだろ?」

「だよな……。」

二人は不安になりながらも、さらに奥へ進んだ。

すると、突然——

ザワ……ザワ……

まるで大勢の人がささやくような声が聞こえてきた。

「……誰かいるのか?」

周囲を見回すが、森の中には二人だけのはずだった。

しかし、次の瞬間——

視界の隅に無数の白い影が現れた。

「……っ!」

気づいた時には、森の中に大勢の“何か”が立っていた。

第二章:群霊の正体

「……何だよ、これ……。」

白い影は、すべて顔がぼんやりとしている。

男女、年齢、服装——バラバラな姿。

しかし、共通しているのは——

全員が涼と拓海を見つめていること。

「……戻るぞ。」

涼が小声で言うと、拓海も無言で頷いた。

ゆっくりと後ずさる。

しかし——

白い影も、ゆっくりと近づいてくる。

「……やばい。」

涼は拓海の腕を引っ張り、一気に走り出した。

しかし、背後から——

ザザザザザザッ!!

無数の足音が響く。

「ついてきてる!!」

全速力で森を駆け抜ける。

しかし、出口が見えない。

まるで、森が広がっているように感じる。

そして、気づいた。

「出る時には、人数が増えている」

「……っ、拓海!!」

涼は振り向いた。

そこには——

涼の知らないもう一人の“拓海”がいた。

第三章:増えていた人数

「……お前、誰だ?」

「何言ってんだよ、俺は拓海だろ?」

もう一人の拓海は、涼と同じように汗をかき、息を切らしている。

しかし——

顔が、ほんの少しだけ歪んでいた。

「……違う。お前は拓海じゃない。」

「何言ってんだよ、早く行くぞ。」

「オレはここにいるよ!」

振り向くと、もう一人の拓海がいた。

「……どっちが本物だ……?」

「はは……お前、何言ってんの?」

偽物が笑い、ゆっくりと近づいてくる。

その瞬間——

本物の拓海が叫んだ。

「涼!! そいつの足を見ろ!!」

涼は、偽物の足元を見た。

—— そこには、影がなかった。

「お前は、誰なんだ……?」

涼が一歩後ずさると、偽物の拓海はニヤリと笑った。

「……やっと、気づいたね。」

そして——

涼の目の前で、黒い靄(もや)となって消えた。

エピローグ:忘れられた影

その後、なんとか森を抜けた二人。

「……ヤバかったな。」

「もう二度と行かない。」

しかし、涼は違和感を覚えていた。

「……なあ、拓海。」

「ん?」

「俺たち……元々、三人で来なかったか?」

「……え?」

涼は思い出せなかった。

でも、確かにもう一人——

誰かと一緒に来ていた気がする。

しかし、その人の顔も名前も思い出せない。

スマホの写真を確認すると——

森に入る前の写真に、三人で写っていた。

しかし、三人目の顔が真っ黒に塗りつぶされていた。

「……誰だよ、これ……。」

「なあ、もうやめようぜ……忘れよう。」

涼と拓海は、それ以上何も言わなかった。

増えていたのは、“知らない誰か”ではなく、“元々いた誰か”だったのかもしれない。



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