大学で映像研究をしている俺は、ある日、教授から古いビデオテープの調査を頼まれた。
「資料室の整理をしていたら、奇妙なテープが出てきてね。内容を確認してほしい」
教授が差し出したのは、埃をかぶったVHSのビデオテープだった。
タイトルの部分には手書きで、こう記されていた。
「○○村供養祭 1993年」
「……○○村？」
聞いたことのない地名だった。
「昔、山奥にあった村だよ。今は廃村になっているが、かつては群霊信仰という独特の儀式を行っていたらしい」
「群霊信仰……？」
「多数の霊を鎮めるための儀式だそうだ。だが、このビデオに映っているのが最後の供養祭だったらしい」
教授はそれ以上詳しくは語らなかったが、俺は興味をそそられた。
その夜——俺は、研究室でそのビデオを再生した。
目次
ビデオに映る異変
映像は、村の広場のような場所から始まった。
ぼんやりとした画質の中、村人たちが白装束を着て並んでいる。
中央には木製の祭壇があり、祈祷師らしき男が経文を唱えていた。
「……なるほど、これが供養祭か」
しばらく映像を見ていると、村人たちが突然一斉に後ろを向いた。
「……？」
違和感を覚える。
なぜか、カメラマンも一緒に振り返るように映像が動いた。
そして——
広場の外れに、無数の白い影が並んでいた。
「……！！」
その影は、村人たちとは明らかに違った。
白くぼやけ、顔のない存在たち。
彼らはじっと村人たちを見ていた。
いや——
"こちら"を見ていた。
途切れる映像
カメラがゆっくりと群霊にズームする。
その瞬間——
「ザー……ザー……」
映像が激しく乱れた。
次の瞬間、画面が切り替わり、今度は村人たちが地面に倒れている映像が映った。
「え……？」
広場にいた人々が、全員動かなくなっている。
カメラはゆっくりと村の方へ向きを変えた。
そして、村の奥にある小さな祠を映した。
扉には何かが書かれている。
画面がぼやけて読めないが、カメラが近づくにつれ、かすかに文字が浮かび上がった。
「封印解除」
その瞬間——
「見つけた……」
スピーカーから、低い囁き声が流れた。
映像が乱れ、最後に群霊たちがこちらに向かってくる瞬間が映り——
「プツン！」
ビデオは、そこで途切れた。
画面に映るもの
「……やばいな、これ」
不気味な気持ちを抱えながら、俺はビデオデッキを止めた。
しかし——
画面が真っ暗になったモニターに、何かが映っている。
「……？」
よく見ると、モニターの黒い画面の中に——
研究室の後ろに立つ"何か"が映っていた。
俺は恐る恐る振り向いた。
——誰もいない。
しかし、モニターには、確かに白い影が増え続けている。
ビデオの続き
「やばい、捨てるべきか？」
ビデオテープを手に取り、どうするべきか考える。
その時——
「カチャ……」
デッキの電源が勝手に入った。
そして、再生される映像。
そこには、今まさに俺がいる研究室の映像が映っていた。
画面の中の俺が、震えながらビデオを見ている。
そして——
画面の奥から、"白い影"がゆっくりと近づいてきていた。
「群れに、加われ」
背後から、冷たい息がかかる。
俺は叫びながら、映像を止め、テープを引きちぎった。
モニターの画面には、ただ黒いノイズが流れ続けていた。
消えた村とビデオテープ
翌日、教授にビデオのことを報告しようとした。
しかし——
「……○○村？ そんな村は聞いたことがないな」
「え？ でも昨日、教授がビデオを——」
「ビデオ？ 何の話だ？」
教授は明らかに知らない顔をしていた。
「……じゃあ、昨日のテープは？」
急いで研究室に戻り、破ったはずのビデオを探した。
しかし、どこにもなかった。
まるで——
最初から存在しなかったかのように。
だが、俺のスマホのカメラフォルダには、昨夜撮った覚えのない画像が残っていた。
それは、ビデオの最後のシーン——
無数の群霊がこちらに向かってくる映像だった。
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