「下法（げほう）って知ってるか？」
ある日、大学のゼミ仲間である藤木が妙なことを言い出した。
「……下法？」
「死者の霊を強制的に呼び出し、縛る呪術だよ」
「何それ、降霊術みたいなもん？」
「似てるけど違う。降霊術は"霊を招く"だろ？ でも下法は"霊を引きずり出す"んだよ。本来なら成仏するはずの霊を、無理やりこの世に繋ぎ止めるんだ」
藤木はそう言って、古びた和紙を取り出した。
そこには、漢文のような呪文と、無数の小さな人影の絵が描かれていた。
「……これ、どこで手に入れたんだ？」
「ネットのオカルト掲示板で知ったんだけどさ……この術を使って群霊を縛った村があったらしいんだよ」
「群霊……？」
「昔、大災害や疫病で大量の死者が出た村があってな。村人たちは、霊が暴れるのを恐れて、この下法を使って"群霊"を封じたらしい」
「……そんな術、本当に存在するのか？」
俺は半信半疑だった。
だが、その夜。
俺は、本物の"群霊の下法"を知ることになる。
目次
廃村での実験
藤木は「実際に試してみよう」と言い出し、俺たちはゼミ仲間の石田、山崎と共に、ある廃村へ向かった。
その村は、数十年前に疫病で全滅し、今では誰も住んでいないらしい。
「ここが、"下法"が行われた場所か……」
村の中央に、小さな祠があった。
藤木はそこに和紙を広げ、呪文を唱え始めた。
「……我、汝を此処に縛る……」
その瞬間——
ゴォォォォ……！！
突然、強い風が吹き荒れた。
「……！？ なんだよ、これ！」
空気が重くなり、辺りが異様な静寂に包まれる。
そして——
視界の端に、"何か"が見えた。
群霊の顕現
村の家々の間から、無数の人影が現れた。
白く霞んだ存在。
顔ははっきりと見えず、ただ静かに佇んでいる。
「おい、これ……マジかよ」
石田が震える声で言う。
だが、藤木は嬉しそうに呟いた。
「成功だ……！ これが"群霊"……！！」
その瞬間、群霊たちがゆっくりとこちらに向かってきた。
「……ちょ、待て！ 縛ってるんじゃないのか！？」
「違う……こいつら、"呼び出した"だけだ……！」
「じゃあ、どうすれば——」
次の瞬間、
「おまえたちも……加われ……」
囁き声と共に、群霊の手が俺たちに伸びた。
下法の代償
「やばい！！」
俺たちは慌てて祠の外へ逃げ出した。
だが、藤木だけは動かなかった。
「……待てよ、おい！」
「ダメだ……動けない……」
藤木の足元を見ると、無数の白い手が彼の足を掴んでいた。
「やめろ！！ 離せ！！」
藤木が必死にもがくが、群霊たちは彼を引きずり込もうとする。
「おい、呪文を止めろ！！ どうやったら終わるんだ！？」
だが、藤木は答えなかった。
いや——答えられなかった。
彼の口から、異様な呻き声が漏れ始めた。
「……アアアア……」
藤木の目が真っ黒になり、顔が次第に群霊たちと同じ"ぼやけた顔"に変わっていく。
「……藤木……？」
「これ……が……下法……」
藤木の体がふっと消えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
群霊の支配
「……嘘だろ……？」
俺たちは震えながら村を飛び出した。
二度とこの場所には近づかないと誓いながら。
しかし——
翌日、俺たちが藤木の家を訪ねると、彼の家族はこう言った。
「藤木……？ そんな子、うちにはいませんが」
「は？ 何言ってるんですか！？ 昨日まで一緒に……」
だが、彼の部屋を見せてもらうと、そこには何もなかった。
まるで、最初から藤木という存在がいなかったかのように。
「……嘘だろ」
呆然としていると、俺のスマホに知らない番号から着信が入った。
恐る恐る出ると——
「……次は、おまえの番だ」
囁くような声が聞こえた。
その声は——
藤木の声だった。
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