怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

元の世界に戻りたい──違和感に気づいた時 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章──変わらないはずの日常

会社員の藤井悠斗は、いつもと変わらない朝を迎えた。

ベッドから起き上がり、歯を磨き、スーツに着替え、コーヒーを一杯。

玄関を出ると、すぐ近くのコンビニで朝食を買う。

「おはようございます」

レジの女性店員が笑顔で挨拶する。

「おはようございます」

悠斗は会釈し、財布を取り出した。

──その瞬間、違和感を覚えた。

財布の中の免許証の名前が違う。

「……え?」

確かに、自分の写真が載っている。

だが、名前が『藤井拓海』になっていた。

「……俺の名前は、藤井悠斗のはずだよな?」

慌ててスマホを確認すると、連絡先やメールの宛名もすべて藤井拓海になっている。

「……どういうことだ?」

気味が悪くなりながらも、悠斗は会社へ向かった。

しかし、そこでも奇妙なことが起こる。

第一章──少しずつ違う世界

会社に着くと、いつもの同僚たちがいた。

しかし、悠斗に向かって誰も「悠斗」と呼ばない。

「おはよう、拓海」

「今日のプレゼン、頼むよ、藤井拓海さん」

「……え?」

悠斗は愕然とした。

周囲はいつもと同じ景色なのに、自分の名前だけが違っている。

恐る恐るデスクのネームプレートを見ると、やはり「藤井拓海」と書かれていた。

「俺は藤井悠斗のはずだ……」

不安に駆られ、スマホのアルバムを開くと、さらに衝撃を受けた。

自分の顔が微妙に違う。

・目の形がわずかに鋭い。
・髪型がいつもより短い。
・服装の趣味が変わっている。

そして、一番怖かったのは、家族との写真が一枚もないことだった。

「……俺、誰なんだ?」

悠斗は必死に考えた。

「俺は、違う世界に来てしまったのか?」

第二章──元の世界に戻る方法

帰宅し、部屋を調べると、家具の配置や持ち物も微妙に違っていた。

「これは……夢じゃない」

何かの理由で、自分は“藤井悠斗”ではなく、“藤井拓海”になってしまった。

「元の世界に戻る方法は……?」

その時、スマホに知らない番号からの着信があった。

「もしもし……?」

📞 「気づいたか?」

低くくぐもった声。

「誰だ?」

📞 「お前は今、“お前ではない世界”にいる」

「……!!」

📞 「元の世界に戻りたいなら、方法は一つ」

「どうすれば……?」

📞 「この世界で“本来の藤井拓海”を探せ」

「え?」

📞 「そして、そいつと“入れ替わる”んだ」

通話はそこで切れた。

悠斗は、震えながらスマホを握りしめた。

「藤井拓海……俺が、入れ替わった相手?」

第三章──出会ってはいけない相手

それから数日間、悠斗は必死に「藤井拓海」という人物を探した。

しかし、会社にも、ネットにも、そんな人物の記録はない。

「どうすれば……」

そして、ある夜。

帰宅途中、ふとガラス窓に映る自分を見た。

「……?」

なぜか、ガラスの向こうの“自分”が、じっとこちらを見つめている気がした。

試しに手を上げると、ガラスの“自分”は動かない。

「……違う、俺じゃない」

ガラスの向こうには、もう一人の藤井拓海がいた。

「お前が……?」

その瞬間、ガラスの向こうの男がニヤリと笑った。

「ようやく、気づいたか?」

次の瞬間、視界が暗転した。

終章──戻れたのか?

目を覚ますと、見慣れた部屋にいた。

慌ててスマホを見ると、連絡先の名前は「藤井悠斗」に戻っていた。

「……戻った?」

会社へ行くと、同僚たちも「悠斗」と呼んでくれる。

「夢だったのか……?」

ほっとしたが、どうしても気になった。

会社のガラス窓に映った自分の姿を、もう一度確認する。

──そこには、確かに自分が映っていた。

しかし、よく見ると……

ガラスの向こうの自分が、“ほんの少しだけ遅れて”動いていた。

「……?」

違和感を覚えた瞬間、ガラスの向こうの自分が口を動かした。

「本当に、戻れたと思ってる?」

次の瞬間、ガラスの中の自分がニヤリと笑った。

悠斗の背筋に、冷たい汗が流れた。



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