俺の通う高校には、立入禁止の旧校舎がある。
老朽化が進み、何年も前から使われていない。
「幽霊が出る」なんて噂もあるが、ただの迷信だろう。
しかしある日、俺はその旧校舎に入らなければならない用事ができた。
目次
立入禁止の旧校舎へ
美術部の俺は、先生に頼まれて旧校舎に残された画材を取りに行くことになった。
もちろん、勝手に入るわけにはいかないので、事前に先生の許可を取った。
「気をつけろよ。あそこ、床が抜けかけてるからな」
先生にそう言われながら、俺は鍵を受け取り、旧校舎へ向かった。
少し気になる違和感
旧校舎の扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。
廊下は埃っぽく、薄暗い。
「……まあ、普通に古いだけだな」
奥の美術室まで行き、画材を探す。
少し乱雑に置かれていたが、目当てのものはすぐに見つかった。
何事もなく作業を終え、帰ろうとした時——
「……ん？」
気になったのは、廊下の突き当たりにある教室のドアだった。
ほんの少しだけ開いている。
「……誰かいるのか？」
覗こうとしたが、急に寒気を覚えた。
「……やめとこ」
妙な胸騒ぎがして、そのまま旧校舎を後にした。
友人の忠告
「お前、旧校舎入ったの？」
戻ると、友人の佐々木が驚いた顔で俺を見た。
「先生の許可もらってたし、特に何もなかったよ」
「でもさ……あそこ、変な噂あるじゃん？」
「ただのボロ校舎だって。怖がりすぎだろ」
俺は軽く笑い飛ばした。
確かに、廊下の奥の教室のドアは少し気になったが、それだけだ。
結局、何事もなく俺の旧校舎での用事は終わった。
——しかし、それで終わりではなかった。
次に行ったのは佐々木だった
数日後、今度は佐々木が先生の指示で旧校舎に入ることになった。
壊れた机を確認し、処分の準備をするためらしい。
「マジで行くのかよ……」
佐々木は嫌そうな顔をしていたが、仕方なく鍵を受け取り、旧校舎へ向かった。
そして、その30分後——
佐々木は、青ざめた顔で戻ってきた。
佐々木の体験
「なあ……お前、本当に"何も"なかったのか？」
「は？ 何言ってんだよ」
「……俺、見ちまったんだよ」
佐々木の声は震えていた。
「作業が終わって、帰ろうとした時……奥の教室のドアが開いてたんだ」
「……奥の教室？」
「気になって覗いたんだよ。そしたら——」
「……中に誰かいたのか？」
「いや……"いなかった"んだよ」
「……？」
「教室の中、机も椅子も何もなかった。完全にガランとしてた。でも、"違和感"があった」
「違和感？」
「……天井にさ、足が見えてたんだよ。」
「……は？」
「誰かが逆さまに"張り付いてた"みたいに、"足だけ"が天井からぶら下がってた」
「……っ！！」
「気づいた瞬間、足が"スッ"って動いてさ、俺の真上に"降りてこようとした"んだ……！！」
「マジでやばいと思って、俺はすぐに逃げた」
「でも、逃げる途中——振り返ってみたんだ、あの"廊下の突き当たりの教室"のドア……」
「……ああ、俺がちょっと気になった場所か」
「ドアの隙間から、"誰かがこっちを覗いてた"んだよ……」
「……誰が？」
「わからない。顔が異様に白くて、口だけが笑ってた。でも、"目がなかった"んだ」
「目が、ない……？」
「でさ……その顔、天井から逆さまに出てたんだよ。」
思い出してしまった違和感
佐々木の話を聞いて、俺は急にあの時の"違和感"を思い出した。
俺が旧校舎に入った時——
奥の教室のドアが"少しだけ"開いていた。
でも、あの時は何もなかった。
いや、違う。
あの時、"何もなかった"のか？
俺が覗かなかっただけで——
あの扉の向こうでは、すでに"天井に何かがいた"んじゃないのか？
それを考えた瞬間、背筋がゾッと冷たくなった。
俺は、気づかずにすれ違っていたのかもしれない。
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