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振り向いてはいけない──夜の路地裏と黒猫 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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夜道に現れた黒猫

仕事が長引き、終電を逃した夜のことだった。タクシーを使うのももったいなくて、仕方なく歩いて帰ることにした。

住宅街の細い路地を通り抜けると、どこからか「ニャァ…」という鳴き声が聞こえた。

目を向けると、一本の電柱の下に黒猫が座っていた。目がギラリと光り、じっとこちらを見つめている。

猫好きの俺は、つい足を止めて「どうした?」と声をかけた。

すると──

カリ…カリ…

どこからか、何かを引っかくような音が聞こえた。周囲を見回しても、誰もいない。あるのは、じっとこちらを見つめる黒猫だけ。

「気のせいか…」

そう思って歩き出すと、背後でカリ…カリ…と音がついてくる。

まるで、誰かが地面を這いながらついてきているような、嫌な音だった。

増えていく猫の影

少し歩いてから、ふと振り向くと──さっきの黒猫がいた。

いや、違う。

黒猫は二匹に増えていた。

しかも、二匹とも同じポーズで、じっと俺を見つめている。

「……気のせいだよな。」

足を速める。だが、路地を抜けても、カリ…カリ…という音は止まらなかった。

もう一度振り向くと、今度は黒猫が三匹に増えていた。

全身に悪寒が走る。心臓が嫌な鼓動を打つ。

(振り向いちゃダメだ…)

直感的にそう思った俺は、ひたすら前だけを見て家へ向かった。

猫の正体

やっとの思いで自宅に着き、すぐにドアを閉めた。

「ハァ…ハァ…なんだったんだ、あれ…」

汗を拭きながら窓の外を見る。

そこには、黒猫が四匹、じっとこちらを見上げていた。

「……嘘だろ…?」

そのとき、スマホのバイブが鳴った。

友人からのメッセージだった。

『お前、今どこにいる? 夜の路地裏には気をつけろ。最近、猫について行った人が行方不明になるって話、知ってるか?』

その瞬間、窓の外の黒猫たちが、一斉に口を開けた。

ニャァァァァアアアアアアア……

異様に長い、耳をつんざくような鳴き声。

俺は慌ててカーテンを閉めた。

翌朝、恐る恐る外を見ると、猫の姿はなかった。だが、玄関の前には爪で引っかいたような無数の傷跡が残っていた。

それ以来、夜道で猫を見かけても、俺は決して立ち止まらない。

絶対に、振り向かない。



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