目次
序章──公園の紙芝居屋
会社員の田中翔太は、久しぶりの休日に近所の公園を散歩していた。
夕暮れ時、子どもたちの声が響く中、ふと懐かしい光景を目にした。
──紙芝居屋だ。
「まだこんなのやってるんだな……」
翔太が小学生の頃、近所にも紙芝居屋が来ていた。
今の時代、珍しいものだと思いながら近づくと、赤い帽子をかぶった老人が木枠の紙芝居を準備していた。
「お兄さんも、見ていくかい?」
子どもたちと一緒に、翔太はベンチに座った。
老人が木箱を叩きながら、静かに話し始める。
「さて、今日は特別なお話だよ……『最後の一枚』っていう紙芝居さ」
翔太は、そのタイトルに違和感を覚えた。
「……どこかで聞いたことがあるような?」
だが、思い出せないまま、紙芝居が始まった。
第一章──奇妙な紙芝居
紙芝居の物語は、こうだった。
『ある町に、一人の紙芝居屋がいた。
彼の話を聞いた子どもたちは、皆、その日を最後に姿を消したという。
なぜなら──』
ここで、老人が不気味に笑い、次の紙芝居をめくった。
──『その紙芝居には、決して見てはいけない“最後の一枚”があったからだ』
翔太は、ぞくりとした。
子どもたちは興味津々の様子だが、翔太はこの話をどこかで聞いた覚えがある。
しかし、やはり思い出せない。
老人はゆっくりと話を続けた。
「その紙芝居屋は、ある日、子どもたちにこう言った。
“最後の一枚だけは見てはいけないよ” と。
でも、一人の男の子が好奇心に負けて見てしまった。
そして──」
その瞬間、バタン!と木箱の蓋が閉じられた。
「さて、今日はここまでだ」
「えー! なんで最後までやらないの?」
子どもたちは不満そうに叫んだが、老人はただ微笑んだ。
「この話はね、“最後の一枚を見た人”にしか分からないんだよ」
翔太は背筋が寒くなった。
「……おじいさん、その話って、昔からある話ですか?」
「さあねぇ……」
老人は曖昧に笑い、木枠を片付け始めた。
翔太はその場を後にしたが、帰り道でふと気づいた。
「……俺、この話、いつどこで聞いたんだ?」
どうしても思い出せなかった。
第二章──忘れられた記憶
帰宅後、翔太は気になって「最後の一枚 紙芝居」で検索してみた。
しかし、何も出てこない。
「……おかしいな。都市伝説とかにありそうなのに」
気味が悪くなりながらも、そのまま眠りについた。
しかし、その夜。
翔太は奇妙な夢を見た。
──夕暮れの公園。
子どもたちの笑い声。
赤い帽子の紙芝居屋。
そして、最後の一枚を見た瞬間──。
夢の中の翔太は、紙芝居を覗き込んでいた。
そこに描かれていたのは──
見覚えのある自分の顔。
そして、紙の下に書かれた文字。
「お前はもう、見た」
翔太は悲鳴を上げ、飛び起きた。
心臓がバクバクと鳴る。
「なんだ、今の……?」
汗を拭いながらスマホを確認すると、カメラフォルダに奇妙な写真があった。
それは、今日公園で見た紙芝居の最後のページ。
しかし、翔太はそんな写真を撮った覚えがない。
震える手で拡大すると、そこにはこう書かれていた。
「もうすぐ迎えに行くよ」
第三章──消えた紙芝居屋
恐怖に耐えきれず、翔太は翌日、公園へ向かった。
しかし、あの紙芝居屋の姿はなかった。
子どもたちに聞いても、「そんな紙芝居屋なんて見てない」と言う。
「……嘘だろ? 昨日、確かにいたじゃないか!」
必死に周囲を探していると、公園の管理人が声をかけてきた。
「お兄さん、何を探してるの?」
「昨日ここにいた、赤い帽子の紙芝居屋のおじいさんです!」
すると、管理人の顔が曇った。
「……それ、いつの話?」
「昨日です! 夕方ごろ!」
管理人は深いため息をつき、こう言った。
「それ、**30年前に消えた紙芝居屋のことじゃないのか?」
「え?」
「この公園には昔、毎日紙芝居をやるおじいさんがいたんだよ。でもな……最後の一枚を見せるって言って、子どもたちを連れて行ったまま消えたんだ。
それ以来、この公園では“赤い帽子の紙芝居屋を見たら絶対について行くな”って言われてるんだよ」
翔太は絶句した。
「じゃあ……俺が見たあの紙芝居屋は……?」
管理人は静かに答えた。
「そいつは、次の観客を探してるんだよ。」
翔太は背筋が凍った。
急いでスマホを取り出し、昨夜の写真を確認した。
しかし、そこには何も写っていなかった。
写真は、真っ白になって消えていた。
終章──最後の一枚を見た者は
それから翔太は、紙芝居のことを忘れようとした。
しかし、夜になると、どこからか木箱を叩く音が聞こえる。
──パン! パン!
そして、夢の中で最後の一枚を見せられる。
「お前はもう、見た」
「次は、お前が語る番だ」
翔太は気づいた。
あの紙芝居屋は、新しい語り手を探していたのだ。
「俺も……誰かに、この話をしなきゃいけないのか?」
そしてある日、公園で翔太の姿を見た子どもたちが言った。
「ねぇ、あの人……赤い帽子、かぶってる?」
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