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消えた紙芝居屋──見たら戻れない物語 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章──奇妙な紙芝居屋

小学5年生の田中悠斗は、ある日、学校の帰り道で見たことのない紙芝居屋を見つけた。

夕暮れ時、公園の隅に古びた木箱を置き、年老いた男が一人座っている。

「紙芝居なんて、今どき珍しいな……」

男はにこりと笑い、静かに呼びかけた。

「坊や、紙芝居を見ていかないかい?」

悠斗は少し迷ったが、興味に負けて足を止めた。

「どんな話?」

「ふふ……これは、ここでしか見られない特別な物語さ」

そう言って、男は紙芝居の表紙をめくった。

そこには、くすんだ赤い文字でこう書かれていた。

──『戻れなくなった子どもたち』

悠斗は、背中に薄い寒気を感じながらも、紙芝居を見始めた。

第一章──不気味な物語

「昔々、ある村に、元気な子どもたちがいました……」

男の低く静かな声が、公園に響く。

紙芝居には、5人の子どもたちが描かれていた。

「ある日、子どもたちは村の外れにある廃屋へ探検に行きました」

ページがめくられる。

「そこで、子どもたちは……一人ずついなくなってしまいました」

次の絵には、5人いたはずの子どもが4人になっている。

「一人は、井戸の中へ落ち……」

またページがめくられ、3人になる。

「一人は、天井から吊るされ……」

悠斗は、なんとも言えない不安を感じた。

「……これ、本当に子ども向けの話?」

だが、紙芝居屋の男は気にせず話を続ける。

「そして、最後の一人が誰もいなくなった廃屋の中を歩いていると……」

次の絵をめくる瞬間、男は不気味な笑みを浮かべた。

「おや、坊や。子供が、増えているよ?」

悠斗はぞっとして紙芝居を見た。

子どもが、増えている。

第二章──物語に取り込まれる

「え?」

確かに、さっきまで1人だったはずの絵。

しかし、新しいページでは、5人になっている。

「これ、さっきのページと違うじゃん……」

「おや、坊やには見えないかい?」

男は嬉しそうに笑った。

悠斗はゾッとし、すぐに後ろを振り返った。

──誰もいない。

しかし、背後から微かに足音が聞こえた気がした。

「……この話、もうやめていい?」

「ふふふ……最後まで見ないと、帰れないよ?」

悠斗は立ち上がろうとしたが、身体が動かない。

まるで、何かに押さえつけられているかのように。

「さあ、次のページだ……」

男が最後のページをめくる。

そこには──

自分の姿が描かれていた。

悠斗は悲鳴を上げた。

「これ……俺じゃん!!」

すると、紙芝居屋の男は楽しそうにこう言った。

「坊や、物語の続きを作るのは、君の番だよ」

第三章──消えた紙芝居屋

「いやだ!帰る!!」

悠斗は無理やり立ち上がり、走り出した。

全力で公園を飛び出し、家に駆け込む。

振り返ると、紙芝居屋も、紙芝居も消えていた。

「なんだったんだ、あれ……」

震えながら、その日は布団をかぶって眠った。

翌朝。

学校に行く途中、昨日の公園を覗いた。

紙芝居屋はやはりいなかった。

しかし、公園の隅に紙芝居の1ページが落ちていた。

恐る恐る拾い上げると、そこには……

悠斗が紙芝居屋の前に座っている絵が描かれていた。

「……俺?」

すると、そのページの下に、小さな文字が書かれていた。

──「次に紙芝居を開いた者が、物語の続きを作る」

悠斗は、すぐにページを引き裂き、ゴミ箱に捨てた。

しかし、その夜。

夢の中で、どこか遠くから紙芝居屋の声が聞こえた。

「坊や、続きを作らないと、ここから帰れないよ?」



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