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【野良犬と怨霊退散】夜道で出会ったもの 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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序章:深夜の野良犬

「……またかよ。」

会社員の 田村啓介(たむら・けいすけ) は、終電を逃し、仕方なく夜道を歩いていた。

自宅までは30分ほどの距離。

街灯の少ない細い路地を通り抜けると、ふと視線を感じた。

振り向くと——

野良犬が一匹、じっとこちらを見ていた。

毛はぼさぼさで、痩せ細っている。

しかし、その瞳は妙に鋭く、まるで何かを訴えているようだった。

「……なんだよ、お前。」

犬はゆっくりと歩き出した。

それも、啓介の進む道を先導するかのように。

(ついて来いってことか?)

気味が悪かったが、なぜか無視できなかった。

啓介は、犬の後を追った。

しかし、この時まだ知らなかった。

それが、ただの野良犬ではないことを——。

第一章:異変の路地

野良犬が導いたのは、普段は通らない裏路地だった。

「こっちは近道……なのか?」

路地の奥へ進むにつれ、空気が重くなる。

まるで、何か見えないものが潜んでいるような感覚。

そして、次の角を曲がった瞬間——

「……っ!!」

啓介は思わず立ち止まった。

そこには、黒い影のようなものがうずくまっていた。

人間の形をしているが、顔はぼんやりと歪んでいる。

そして、何かをつぶやいていた。

「……かえせ……かえせ……」

(やばい、見ちゃいけないやつだ。)

逃げようとしたその瞬間——

「グルルル……!!」

野良犬が低く唸った。

そして、影の前に立ちはだかると、鋭い牙をむき出しにした。

第二章:野良犬の正体

「お、おい……!」

啓介は慌てて後ずさる。

野良犬は、影に向かって吠え続けていた。

すると——

影が一瞬、怯んだように揺れた。

「……お前、まさか……!!」

影が苦しげにのたうち回る。

啓介はそこで気づいた。

(もしかして、この犬……あの影を追い払おうとしてるのか?)

その瞬間、影が啓介の方へ向かってきた。

「うわっ!!」

だが、野良犬は飛びかかるようにして影を押さえつけ、激しく吠えた。

影は次第に形を崩し、煙のように消えていった。

啓介は息を呑む。

(……この犬、怨霊を退散させたのか?)

第三章:忘れられた忠犬

影が完全に消えると、野良犬はゆっくりと振り向いた。

「……助けてくれたのか?」

犬はじっと啓介を見つめた。

その瞳には、どこか悲しげな光が宿っている。

啓介はふと、近くに立っていた古びた石碑に目をやった。

そこにはこう刻まれていた。

「忠犬ハチ――(削れた文字)」

さらに下には、小さな文字で——

「この犬、主人を守り、最期まで戦いぬく」

(……もしかして、この犬は……。)

「お前、ずっとここにいたのか?」

犬は答えない。ただ、じっと啓介を見つめていた。

「……ありがとうな。」

そう言うと、犬はゆっくりと背を向け、闇の中へ消えていった。

まるで、もう自分の役目を終えたかのように——。

エピローグ:消えた犬

翌朝、啓介は気になって昨夜の場所へ行ってみた。

だが、そこには何もなかった。

石碑も、影も、犬の姿も。

ただ、一枚の古びた写真が落ちていた。

そこには、かつての街並みと、一匹の犬の姿が写っていた。

啓介はゾッとした。

その犬は——

昨夜、啓介を救った野良犬とまったく同じ姿をしていた。



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