目次
序章──深夜の帰り道
会社員の田中翔太は、終電を逃し、仕方なく歩いて帰ることにした。
街灯の少ない裏道を歩きながら、スマホでタクシーを呼ぼうとするが、運悪くアプリの調子が悪い。
「クソ……もう少し明るい道を通ればよかった」
夜の静寂の中、翔太はふと何かの視線を感じた。
「……?」
振り返ると、路地の奥に黒い影がうごめいている。
──野良犬だった。
ガリガリに痩せた体、ボサボサの毛並み。
しかし、それ以上に異様だったのは、その犬がじっと翔太を見つめていることだった。
「なんだよ……」
翔太が一歩踏み出すと、犬も静かに動いた。
まるで、ついてこいと言うかのように。
「……まさか、道案内か?」
半信半疑のまま、翔太は野良犬の後をついていった。
しかし、この時、彼はまだ知らなかった。
それが「導く」というより「引きずり込む」行為であることを──。
第一章──暗夜の礫(あんやのつぶて)
野良犬は迷いなく路地を進む。
翔太は気づくと、見覚えのない道を歩いていた。
「……こんな場所、あったか?」
街灯はなく、足元すら見えないほどの闇。
そして、異変に気づく。
足元に無数の「小石」が転がっている。
──カツン。
翔太が一歩踏み出すと、石が微かに音を立てる。
「……なんだ、この石?」
小石は不自然に多く、まるで誰かが意図的にばら撒いたようだった。
不気味に思いながらも、翔太は足を進める。
すると、野良犬がピタリと立ち止まった。
その視線の先に、翔太は異様なものを見つけた。
「石の山」だった。
まるで墓標のように、小石が積み上げられている。
その瞬間、翔太の耳元で低い声が響いた。
──「それに触れるな」
ゾクリと背筋が凍る。
誰もいないはずの夜道。
振り返っても、野良犬しかいない。
「……誰の声だ?」
しかし、翔太は次の瞬間、衝撃的な光景を目にする。
──野良犬が、ゆっくりと石の山に近づいたのだ。
「おい、やめろ……!」
だが、犬はお構いなしに石を崩してしまった。
──すると。
石の下から、何かの手が、ゆっくりと這い出してきた。
翔太は絶叫した。
第二章──埋められた何か
手は細く、乾いていた。
それは人間の手だった。
「……嘘だろ?」
ガタガタと震えながら後ずさる翔太。
その時、低い呻き声が聞こえた。
──「かえせ……」
まるで地の底から響くような声。
翔太は恐怖で動けなくなった。
一方、野良犬は唸り声を上げ、牙をむいて石の山を掘り返す。
「おい、やめろ……!」
しかし、犬は聞かない。
すると、
──ズルリ。
石の下から、顔のない人間のようなものが這い出してきた。
「っ!!」
翔太は必死で逃げようとした。
しかし、足元の石に躓き、転んでしまう。
その瞬間、顔のない何かが、翔太の足を掴んだ。
──「つれていく……」
指先が異様に冷たく、まるで死者が掴む感触だった。
「やめろ……!!」
翔太が叫んだその瞬間、
──ガブッ!!
野良犬が、それの腕に噛みついた。
「……!!」
それは、一瞬だけ動きを止めた。
翔太は必死で足を引き抜き、立ち上がる。
「お前、助けてくれたのか……?」
しかし、野良犬は翔太の方を見ず、ジリジリとそれに向かって吠え続けた。
まるで、「逃げろ」と言うように。
翔太は一目散に走り出した。
第三章──野良犬の行方
必死で走り、気づくと翔太は知っている道に戻っていた。
「……ハァ……ハァ……助かった……?」
しかし、野良犬の姿はなかった。
「あの犬は……?」
翌日、翔太は気になり、昨夜の路地裏を探した。
だが、その道はどこにもなかった。
代わりに、近所の老人が話しかけてきた。
「あんた、昨夜あの道を歩いたのか?」
「え?」
「あそこはな……昔、野良犬が人を助けた道なんだよ」
「……どういうことですか?」
老人は、昔ここである男が石を投げつけられ、埋められた話をしてくれた。
「その男は“暗夜の礫”って呼ばれたんだ。夜中に石をぶつけられ、殺されたらしい」
「じゃあ、俺が見たのは……」
「たぶん、そいつの怨念だろうな」
翔太は震えた。
「でも、あの犬が助けてくれたんです」
老人は寂しそうに笑った。
「昔な……その男に石を投げた奴らの一人が後悔して、罪滅ぼしのつもりで野良犬を世話したんだと」
「え?」
「野良犬は、主人を失った男の代わりに、ずっと夜の街を歩いてるらしいよ。もう、50年以上もな」
翔太は言葉を失った。
「……それじゃ、俺を助けたあの犬も?」
老人は、静かに頷いた。
そして最後に、こう言った。
「……でもな、その犬、ずっと前に死んでるんだよ」
翔太の背筋が凍りついた。
──昨夜、一緒にいたはずの犬は、もうこの世には存在しない。
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