目次
序章：不思議な酒蔵
三月、夢見月 のある日。
仕事帰りの 佐々木和也（ささきかずや） は、ふと立ち寄った裏路地で、見慣れない酒屋 を見つけた。
「夢見酒造」 と書かれた木の看板が、ぼんやりと灯る提灯の下で揺れている。
「こんなところに酒屋があったか……？」
不思議に思いながらも、酒好きの和也は、ふらりと扉を開けた。
第一章：奇妙な店主と酒
店の中はひっそりとしていた。
カウンターの奥に、着物姿の老人が座っている。
「いらっしゃい。」
静かな声が響く。
和也は並ぶ酒瓶を見回し、ひとつの瓶に目を留めた。
「夢見月」
淡い月の絵が描かれた、美しい瓶。
「それは特別な酒ですよ。」
老人が微笑む。
「飲んだ人は、夢の中で願いが叶う そうです。」
和也は興味を惹かれ、一本購入した。
第二章：夢の中の宴
家に帰り、さっそく 「夢見月」 を飲んでみた。
ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
飲んだ瞬間——
意識がふっと遠のいた。
気がつくと、和也は 満開の桜の木の下 にいた。
目の前には、豪華な宴の席。
見知らぬ人々が楽しげに盃を交わしている。
「ようこそ、『夢見の宴』へ。」
美しい和装の女性が、微笑みながら酒を注いでくれる。
「ここでは、あなたの願いが何でも叶いますよ。」
和也は驚きながらも、盃を受け取った。
「これが……夢の中？」
第三章：叶う願い
和也が何気なく 「お金が欲しいな」 と呟くと、
次の瞬間——
目の前に山のような金貨 が積み上がっていた。
「……本当に願いが叶うのか？」
試しに 「もう一度、あの頃の恋人に会いたい」 と願うと、
懐かしい 元恋人の笑顔 が目の前に現れた。
「和也、会いたかった……」
彼女はまるで生きているように話しかけてくる。
「このまま、ここで過ごすのも悪くないかもな……」
和也は酔いと幸福感に包まれ、ゆっくりと目を閉じた。
第四章：現実との境界
「……和也さん。」
耳元で囁く声がした。
目を開けると、夢の世界は消えていた。
しかし、手元にはまだ 夢見月の盃 があった。
「……ただの夢？」
時計を見ると、朝の五時だった。
しかし——
机の上には、見覚えのない金貨が一枚 転がっていた。
そして、スマホには未登録の番号からのメッセージが。
『和也、久しぶりに会えない？』
それは、数年前に別れた 元恋人の名前 だった。
エピローグ：再び、夢見酒造へ
不思議な気持ちで、和也は翌日 「夢見酒造」 に向かった。
しかし——
そこには、何もなかった。
古い木造の建物すらなく、ただの空き地が広がっている。
「……夢だったのか？」
しかし、手には 「夢見月」 の瓶がしっかりと残っていた。
そして、その瓶には、こう書かれていた。
『また願いを叶えたいときは、夢の中で盃を満たせ。』
和也はそっと瓶を見つめた——。
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