目次
第一章──幻の酒『夢見月』
酒好きの高橋(たかはし)は、珍しい日本酒を探すのが趣味だった。
ある日、古びた酒屋で見慣れない酒を見つける。
『夢見月』──淡い月明かりのラベルに、柔らかく揺らめく筆文字。
値段も手頃だったため、試しに一本買ってみることにした。
店主は無言で酒を渡し、代金を受け取ると、最後にこう言った。
「……飲む前に、ラベルの裏を見てください。」
不思議に思いつつも、高橋は家に帰り、さっそく開封した。
第二章──奇妙な注意書き
ラベルの裏には、古びた紙が貼りつけられていた。
そこには、こんな注意書きが書かれていた。
──『夢見月を飲んだ夜、決して鏡を覗かぬこと。』
「なんだこれ……」
奇妙な気はしたが、気にせず酒を注ぐ。
淡い琥珀色の液体は、ふんわりと甘く、どこか懐かしい香りがした。
一口飲むと、驚くほど口当たりが良い。
「これは……美味いな」
ゆっくりと酒を楽しんでいると、次第にまぶたが重くなっていった。
「少し……眠くなってきた……」
高橋は、そのまま夢の中へ落ちていった。
第三章──夢の世界
気がつくと、どこかの日本家屋に立っていた。
障子の向こうには、ぼんやりとした月明かり。
庭には、しだれ桜が風に揺れている。
「ここは……どこだ?」
誰かの気配を感じ、振り向く。
そこには、一人の白無垢の女性が立っていた。
表情は穏やかだが、どこか寂しそうな雰囲気を纏っている。
「……夢見月を、飲みましたね?」
「えっ?」
「あなたは、今、夢の中にいます。」
「夢……?」
彼女は優しく微笑むと、そっと手を差し伸べてきた。
「……目覚める前に、私と盃を交わしませんか?」
高橋は、不思議と拒む気持ちになれなかった。
彼女が差し出した盃には、月のように白い酒が満たされていた。
盃を口に運んだ瞬間、世界がぐるりと回転し——
第四章──鏡の中の違和感
目を覚ますと、部屋の天井が見えた。
「……夢だったのか?」
夢見月の瓶は、テーブルの上に置かれたまま。
酒はほとんど減っておらず、飲んだのが夢だったような気さえする。
「なんか……変な夢だったな」
寝ぼけた頭をすっきりさせようと、洗面所に向かった。
そして、何気なく鏡を覗いた瞬間、背筋が凍りついた。
──鏡の中の自分が、笑っていなかった。
確かに、自分は微笑んでいる。
しかし、鏡の中の自分は、無表情のまま、こちらをじっと見ている。
息が詰まりそうになる。
そこで、ふと気づいた。
──後ろに、誰かいる。
白無垢の女性が、鏡の中だけで、静かに佇んでいた。
彼女はふっと微笑み、鏡の向こう側へと消えていった。
その瞬間、全身に悪寒が走る。
彼女は、何を意味していたのか。
夢見月をもう一度飲んだら、今度こそ戻れないのではないか——
その夜以来、高橋は決して夢見月を飲むことはなかった。
それでも、時々夢の中で、白無垢の女性が盃を持って微笑んでいるのを見るのだった。
「……もう一度、飲みませんか?」
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