転勤を機に、私は新しいアパートに引っ越した。駅から近く、家賃も安い。築年数は古いが、内装は綺麗で特に問題はなかった。
だが、違和感は初日からあった。
荷物を整理していると、ふと視線を感じる。誰もいないはずの部屋の隅、クローゼットの方から見られている気がするのだ。
気のせいだろうと自分に言い聞かせ、その日は疲れて早めに寝ることにした。
——夜中、ふと目が覚めた。
耳元で「ずっと見てたよ」と囁く声がした。
反射的に飛び起き、部屋中を見回したが、もちろん誰もいない。
気のせいだ、夢だ、そう思い込もうとしたが、それから毎晩、耳元で誰かの囁く声がする。
ある日、たまらず大家に聞いてみた。
「この部屋、何か変なことってありませんか？」
すると、大家は一瞬だけ目をそらし、低い声で言った。
「……気にしない方がいいですよ」
気にするなと言われても、もう十分におかしなことが起きている。
その夜、とうとう決定的なものを見てしまった。
寝ていると、ふと金縛りにあった。体が動かない。
視界の端、クローゼットの扉が少し開いている。
その隙間から——
白い手がゆっくりと這い出してきた。
次の日、私はその部屋をすぐに引き払った。
引っ越しを終えた後、ふとネットで調べてみると、驚くべきことがわかった。
私が住んでいた部屋——過去に住んでいた人全員が、何かしらの理由で短期間のうちに退去していたのだ。
そして、そのほとんどが——
「誰かに見られている気がする」と言い残していたという。
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