目次
深夜のタクシー
終電を逃した会社員の山本(やまもと)は、仕方なくタクシーを拾うことにした。
時刻は午前1時を過ぎている。
雨がしとしとと降る中、傘もなく駅前のロータリーに立っていると、やがて一台の古びた黒いタクシーが静かに停車した。
「……ずいぶん古い車体だな」
無線アンテナもついていないし、タクシー会社の表示もない。
だが、乗車灯はしっかりと「空車」と表示されている。
山本は不安を感じつつも、背に腹は代えられず後部座席に乗り込んだ。
「〇〇までお願いします」
すると、運転手は無言のままうなずき、車を発進させた。
車内の違和感
しばらく走るうちに、山本は奇妙な違和感に気づいた。
内装が異様に古くさい。
カセットテープのラジオ、焦げ茶色のシート、そして車内に漂う香水とも腐敗ともつかない臭い。
窓の外を見ると、なぜか景色がまるで動いていないように感じる。
「……あの、どの辺走ってます?」
そう尋ねると、運転手が低い声でつぶやいた。
「もうすぐです」
「え?」
山本はぞっとした。自分はまだ目的地を具体的に伝えていない。
「〇〇まで」とだけ言ったが、それは地名で、詳細な番地や目印は言っていない。
なのに、「もうすぐ」と言えるはずがない。
「すみません、やっぱり途中で降ろしてください」
そう言ったときだった。
運転手がミラー越しに、初めてこちらを見た。
目が、なかった。
降りられないタクシー
山本はパニックになり、ドアを開けようとした。
だが、チャイルドロックがかかっていて開かない。
車はゆっくりと、しかし止まる気配なく走り続ける。
「止めてください!タクシー会社どこですか!?」
運転手はまた一言だけつぶやいた。
「ここは……戻れない道です」
「は!?」
外を見ると、道路の標識がすべて逆さまに立っていた。
信号も点灯しておらず、まるで世界そのものが反転しているようだった。
謎の領収書
ふと、助手席の背面を見ると、領収書ホルダーがついていた。
そこに挟まれていた紙を取り出すと、そこには——
「令和元年6月13日 乗車:山本浩介 降車地:未記録」
「え……?」
それは、自分の名前だった。
しかも、乗車した覚えのない日付。
「こんなはずは……」
震える手でスマホを取り出すと、画面は真っ黒のまま反応しなかった。
次の瞬間、運転手がボソリとつぶやく。
「ようやく……お返しできますね」
山本の記憶の奥に、かすかな違和感がよみがえった。
——数年前、酔った帰りに乗ったタクシー。
——道に迷っても構わず寝てしまい、目が覚めたときには運転手がいなかった。
——「支払っていない」まま降りた、あの一夜。
「……まさか……」
終点
タクシーが止まった。
だがそこは、見知らぬトンネルの前だった。
看板には、かすれてこう書かれていた。
《終点:お支払いのない方専用》
「……降りてください」
運転手がドアを開ける。
自動で開いたドアの外には、何人もの乗客が無言で立っていた。
目がなく、口だけが笑っていた。
山本は、恐怖で身動きが取れなかった。
その時、耳元で囁かれた。
「お客様、お忘れ物……お支払いが、まだです。」
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