目次
深夜の見知らぬ道
それは、仕事の出張で地方の温泉街に宿泊した時のことだった。
泊まっていた旅館で夕食を終え、軽く散歩しようと外に出たのは夜10時を過ぎていた。
温泉街の灯りはほとんど消えていて、道には誰もいない。細い坂道を上がっていくと、ふと、向こうから人影が歩いてくるのが見えた。
──着物を着た女性だった。
白地に桜模様の淡い色の着物。夜道に映えるその姿は、どこか幻想的で美しかった。
彼女は無言のまま、静かにすれ違おうとした。
だが──なぜか、足音がしなかった。
すれ違ったはずが…
すれ違いざまに軽く会釈しようと顔を向けたが、その女性はうつむいたまま顔を見せなかった。
「こんばんは」
恐る恐る声をかけたが、返事はない。
ふと振り返ると──
誰もいなかった。
道は一本道で、隠れるような場所はどこにもない。
「……あれ? 今、確かに通り過ぎたよな……?」
急に背筋が寒くなり、慌てて宿へ引き返した。
フロントの人に、坂の上で着物姿の女性とすれ違ったことを話すと──
受付の中年男性の顔色が変わった。
「どんな着物でしたか?」
「えっと、白っぽくて、桜の柄が……」
その瞬間、彼は小さく息を呑んだ。
「……それ、昔ここで亡くなった女性と同じ格好です。」
「え?」
「数十年前、旅館の従業員だった若い女性が、お客と揉めてね……。夜、あの坂の上で自ら命を絶ったそうです。」
「じゃあ……あれは……」
「それ以来、時々“同じ着物の女性”を見たという話があるんです。ただ、顔を見てしまった人は――二度と姿を見せなくなるとか……」
部屋での異変
部屋に戻ってから、妙な胸騒ぎが消えなかった。
風呂も済ませ、布団に入ろうとした時。
ふと、床の間に目をやると、いつの間にか一対の草履が揃えて置かれていた。
「え……?」
確かに何もなかったはず。
それは、ついさっき見た女性が履いていたのと同じような草履だった。
恐る恐る近づこうとしたその時、部屋の電気がパチッと勝手に消えた。
そして、闇の中で、すぐ背後から──
「見つけた」
という、低くかすれた声が聞こえた。
俺は、その声の主の顔を見ないように、必死に目を閉じた。
気を失ったのか、次に目覚めた時には朝になっていた。
草履は跡形もなく消えていた。
だが、布団の端には、細い爪痕が数本、残っていた。
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