目次
誰もいない海岸
夏の終わり、俺は一人で海沿いの町を訪れた。
観光地でもないその町は静かで、海岸には誰もいない。
波の音だけが一定のリズムで響き、不思議と落ち着く場所だった。
泊まったのは、小さな民宿。
そこの女将さんがぽつりと言った。
「この時期になると、海から声が聞こえるって言う人が出てくるのよ」
「……誰の声なんですか?」
「さぁ……聞いた人は皆、違うことを言うの。不思議よねぇ」
冗談めかしていたが、その目はどこか本気だった。
最初の囁き
夜、波音が心地よく、俺は砂浜を歩いていた。
と、その時——
「……たすけて……」
小さな、かすれた声が耳元に届いた。
「……え?」
振り向いても、誰もいない。
風の音か? 波か?
そう思いながらも、少し不安が胸をよぎる。
その夜はなんとか眠りについた。
声が近づいてくる
次の日も海辺を歩いていると、再び聞こえた。
「こっち……こっち……」
今度は、確かに海の方からだった。
沖の方には何も見えないが、声だけが耳に届く。
「誰かいるのか……?」
そう呟いた瞬間、足元の波打ち際に小さな手形が残されているのを見つけた。
波が寄せては返すたびに、その手形はだんだん岸の上の方へと増えていく。
女将の告白
怖くなって宿に戻り、女将にその話をすると、彼女は黙っていたが、やがて小さく語り出した。
「……実はね、昔この近くで遊びに来た子供たちが海で流された事故があったの」
「誰も助けられなかった。遺体も一人分しか見つからなくて……」
「その年の夏から、海から子供の声が聞こえるって噂が出たの」
俺は背筋が凍るのを感じた。
昨日から聞こえる声は——
子供の声だった。
最後の夜
帰る前夜、どうしても海に引かれるように足が向いた。
静かな波音。
遠くで、また声がする。
「まだ、見つけてくれないの……?」
「君は、あの時の……?」
俺がそうつぶやいたとき、沖の方にぼんやりと白い影が浮かんだ。
波間に、子供の顔のようなものがこちらを見ていた。
水の中なのに、目を見開いたまま。
そして、声がもう一度、はっきりと聞こえた。
「まだ、ここにいるの」
——俺は、その場を離れた。
二度と振り返らずに。
今も聞こえる声
その後、どれだけ調べても、子供たちの事故は正式な記録には残っていなかった。
でも地元の人に聞くと、曖昧に「そんな話があったかもね」と返されるだけ。
まるで、何かに蓋をされたかのように。
夏が近づくたびに、俺の耳には波音に混じって、あの声が蘇る。
「まだ……ここにいるよ……」
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