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浴室の水音──誰もいないはずの夜 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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深夜の水音

社会人になって初めての一人暮らし。
新築のマンションに引っ越し、仕事から帰ってきたあとの夜の風呂時間が、何よりの癒しだった。

けれど、引っ越して一週間ほど経った頃から、奇妙なことに気がついた。

夜中、ふと目が覚めると、必ず聞こえてくる。

「ポチャン……ポチャン……」

水滴の音。

最初は浴室の蛇口が緩んでいるのだろうと思った。だが、確認しても蛇口はしっかり締まっているし、水滴が落ちる様子もない。

それでも、夜になると必ずあの音が響いてくる。

まるで浴槽に何かが落ち続けている音だった。

消えない足跡

ある夜、音の正体を確かめるため、音がするたび浴室へ向かった。

扉を開けると、誰もいないはずなのに床が濡れていた。

しかも、それは足跡の形になっていた。

裸足で歩いたような小さな水の足跡が、浴室の床から脱衣所まで続いていた。

俺はその瞬間、背筋が凍った。

その夜は浴室の扉を閉め、電気も消して、寝ようとしたが……やはり聞こえてきた。

「ポチャン……ポチャン……」

水音は、まるで俺を呼ぶかのように規則正しく鳴り続けた。

過去の事故

翌日、不動産会社に問い合わせてみた。

「特に変わったことはありませんか?」

俺の問いに、電話の向こうの担当者は一瞬黙り込んだ。

そして、小さな声で答えた。

「実は……前の住人の方、浴室で亡くなったんです。」

「……え?」

「不慮の事故……ということになっていますが、詳細は……。お気を悪くされたなら申し訳ありません。」

電話を切った後、俺はゾッとした。

あの水音は……亡くなった前の住人の“気配”だったのかもしれない。

最後の音

引っ越しを決めた夜、最後に風呂へ入った。

湯船に浸かり、ふと鏡に目をやった。

鏡の奥、自分の肩越しに、濡れた髪の女の姿が映っていた。

「ポチャン……」

浴槽の水が、小さく波打った。

俺は震えながら風呂を飛び出し、その日以来二度とあの部屋には戻っていない。



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