目次
深夜のビル
夜遅くまで残業をしていた会社員の梶原(かじわら)は、ビルのオフィスを一人で出るところだった。
エレベーターは点検中。仕方なく、非常階段を使って降りることにした。
ビルには右と左、2つの階段があり、どちらを使っても1階まで降りられる造りになっていた。
その時、ふと背後から、同僚の林(はやし)が声をかけてきた。
「帰るなら右の階段、だよ。」
「え、どうして?」
「……理由は言えないけど、左は行かない方がいいよ。」
それだけ言うと、林はすぐに自分のデスクへ戻っていった。
不思議に思いながらも、梶原は言われた通り右の階段を降りた。
翌日の違和感
翌朝、会社へ行くと、林の姿がなかった。
同僚たちに聞いても、「林?そんな人、うちの部署にいないよ?」と返ってきた。
昨日確かに会話したのに、誰も林の存在を知らない。
机も、荷物も、メールの履歴も、まるで最初から存在していなかったかのように消えていた。
選ばなかった左の階段
気味が悪くなった梶原は、あの日降りなかった左の階段を昼休みに確かめてみた。
古びた階段は電気も切れていて、昼間なのに中は真っ暗だった。
壁には小さく、うっすらと文字が刻まれている。
「帰るなら右の階段」
何重にも上書きされたような同じ文字。
そしてその隣には、かすれた名前の羅列があった。
その一番下には、林の名前が刻まれていた。
忘れられる人
ビルで働く古株の清掃員にそれとなく話を振ってみた。
すると、清掃員は静かにこう教えてくれた。
「このビルには、何人か“消えた”人がいるんだよ。みんな、左の階段を使った人たちさ。」
「林って人も?」
「林……?ああ、その名前、たしか刻まれてたね。」
梶原はゾッとした。
右の階段を選んでいなければ、自分も誰の記憶にも残らない存在になっていたのかもしれない。
そして今も
それ以来、梶原は毎日右の階段を使って帰っている。
ただ、帰り際、誰もいないはずのオフィスで時々声を聞く。
「……帰るなら右の階段、だよ。」
振り向いても、誰もいない。
だが、今夜もまた声は確かに聞こえる。
選ばなかった左の階段の方から。
■おすすめ
マンガ無料立ち読み

1冊115円のDMMコミックレンタル!

人気の漫画が32000冊以上読み放題【スキマ】

人気コミック絶賛発売中!【DMMブックス】

ロリポップ!

ムームーサーバー

新作続々追加!オーディオブック聴くなら - audiobook.jp


![]() | 新品価格 |

![]() |

![]() | ページをめくってゾッとする 1分で読める怖い話 [ 池田書店編集部 ] 価格:1078円 |

